アメリカの高校生の旅立ち : 卒業式の風景
日本からの参加

下の娘は00年3月の末にこちらの高校を繰り上げ卒業し、日本に帰りました。
アメリカの学校の卒業式は普通6月に行われますが、帰国した娘の強い希望で、この卒業式に参加のために4日間のみオハイオに来る事になっておりました。

上の娘、下の娘とも私が卒業式に出掛けたのは小学校の卒業式だけ。アメリカでは大々的に卒業式をやるのは、この高校の卒業式と大学の卒業式だけです。

小学校とか、中学校は式は一般的に行われないようです。卒業式が行われたのは00年6月4日の午後でした。
高い飛行機代を払って、わざわざ日本から参加する価値があったのか少し疑問はありましたが、卒業式に参加して思った事は、やはり参加させてよかった、でした。
卒業式は学校で行わない?!

娘の行っていた高校はWORTHINGTON KILBORNE HIGH SCHOOL (略してWKHS) という高校で、住宅地域の真ん中にあるきれいな学校です。
ところが卒業式はここで行われなかったのです。コンベンションセンターの入り口

行われたのはコロンバスのダウンタウンタウンにある市のコンベンションセンター。
なかなか立派な建物で、ほぼダウンタウンの中心にあります。

高校そのものはダウンタウンから約20km程北ですが、多分駐車場とかの関係でここになったのでしょう。

卒業生は約360名ですが、父兄とか親戚とかを含めると全部で3000名以上の数になり、車だけでも恐らく1000台以上になってしまうからです。
これだけの駐車場は閑静な住宅街の中にある高校の周辺ではいくらアメリカでも不可能です。

式は午後の2時から、生徒は1時集合です。アメリカでは日曜の午前中教会に行く人が多いので、午前中の行事というのはありません。
私達は駐車場の心配もあったので、12時少しに出掛けました。

さすがのダウンタウンも日曜は道もすいており、駐車場も直ぐに見つける事ができました。
私はダウンタウンはあまり来た事がなく、多分1年振りくらいでした。

会場になっているコンベンションセンターというのは、コロンバス市が運営している巨大な施設で、民間、公を問わず各種行事を行う施設です。
一流のホテル、ショッピングセンター、レストラン、屋内スポーツ施設もあります。
式次第

卒業式の会場になる場所は4000人は入れる、室内スポーツ競技場で大変綺麗な所です。
卒業生360名の中に日本人は4人。
さっそく入り口付近で娘の同級生のSさんに会いました。私も両親に会うのは始めてです。

1時少しに会場に入って席を確保して、待つ事約1時間。
最初に国旗と校旗を持った生徒が入場して、次に校長先生とか教頭先生、それに学年主任とかの先生、次にその他の先生、最後に卒業生の入場です。

先生はみんなガウンまとっており、そのガウンを見る事によって学士、修士、博士の学位がわかるようになっております。修士以上が半分もおりました。

式次第は日本とほぼ同じです。先ず国家の斉唱。
その後校長先生、教頭先生、学年主任の3人のスピーチです。
こちらはいわゆる「来賓」とかいう人達がおりませんので、眠くなるような話がありません。

日本の校長先生とかのスピーチと決定的に違うのは、「アメリカ合衆国」という言葉が頻繁に出て来る点です。それと「自立」を強調している点でした。
生徒は17才と18才が半々くらいですが、ごく一部16才とか或いは私の娘のように19才というのがおります。

実は3日前に卒業式の予行演習と、個人に対する表彰が行われているのです。
成績の優秀な生徒だけに限らず、スポーツで活躍した生徒、ボランティアーでがんばった生徒、生徒会でがんばった生徒、その他非常に広い範囲で表彰は行われたとの事でした。

これら表彰を受けた生徒は首から大きなメダルをぶら下げているので直ぐにわかりました。
その生徒が少しでも良い点があれば、みんなの前でわかるようにする、これもアメリカの特徴です。日本でこれをやったらどのような反応が出るでしょうか。
先生の人気がわかる?

一番印象に残ったのは卒業証書の授与です。
卒業証書は日本のような大きな賞状ではなく、立派な革の表紙のついたバイダーの中に入った小ぶりのものですが、実はこれを誰からもらうのか、生徒が指定できるのです。

自分の高校生活(オハイオは4年間)の中で、一番お世話になったというか、自分が証書をもらうのにふさわしい人からです。
これは先生とは限りません。

学校の事務のオバさんでもいいし、校内の売店のオバさんでもいいのです。
先生はガウンを着て、例の房のついた帽子をかぶっておりますのですぐわかるのですが、普通の服を着た人からもらっていた生徒がそのようなケースのようでした。
キンケード先生と日本人4人衆
証書授与になると、日本と同じく生徒の名前を教頭先生が順番に読み上げていくのですが、ぞろぞろと何人もの売店のオバさんを含む先生達が前に集まって行きます。

ですから生徒の順番とこれらの証書を渡す先生等の順番がうまくリンクしていないと、名前を呼ばれて壇上に上がったのはいいのですが、渡してくれる人がいなくて生徒は壇上でうろうろする事になります。

幸いにこのような場面はなく、アメリカ人がやったにしては(!?!)見事でした。
卒業生の中に4人いた日本人の生徒全員は、キンけード先生という外国人の面倒を見てくれた社会科の先生からもらっておりました。

私はこの先生に挨拶をして、
「私の娘は、多分そんなに悪い生徒ではなかったと思いますが、良い生徒であったという事に対しては自信はありません。」
という、極めて日本人的な言い方をしたところ、
「いつもニコニコ、良い生徒でした。」
とまあ、幼稚園の生徒を誉めるような事を言ってくれました。

卒業証書をもらうのに、誰でもエエわ、という生徒は校長先生からもらっていたようでした。
WKHSの生徒の進路

式場に入るときに、みんなにパンフレットを配ってくれますが、このパンフレットにはいろいろと興味深い事が書かれておりました。

先生達のガウンとキャップを見て、学士、修士、博士の見分け方、ちなみに娘が世話になったキンケード先生は修士でしたが、間もなく博士になるそうです。(50才です。)
卒業後の生徒の行き先、誰が何で卒業表彰を受けたか、それに誰がどこから大学の奨学金をもらったか、等々。

先ず、興味を引いたのは成績優秀で表彰を受けた生徒。
平均4.0(5段階評価)以上28名、平均3.5以上の生徒64名。州の教育委員会から表彰を受けた生徒114名。
次に運動で何らかの成績を得た生徒、109名。

この州の教育委員会からの表彰は、学校の評価につながるそうで、即先生の給料に結び付いているようです。

生徒の卒業後の進路は

州内の公立大学進学:146名
州内の私立大学進学:57名
州外の公立大学進学:31名
州外の私立大学進学:41名
州内外の短大進学:50名
外国の大学進学:1名
職業訓練学校:7名

就職:13名
軍隊:2名
未定:3名

ちなみに私の娘は外国の大学進学になっておりました。

それに更に目を引いたのが、誰がどこから奨学金をもらったかというリストでした。確か校長先生のスピーチの中で、
「今年の生徒は総額3億円の奨学金を獲得した!バンザイ!」
と言っていましたので、エッホントかいな、と思って数えたら40名が約120の奨学金を獲得しておりました。

4年間で1000万円くらいの奨学金を出す団体もたくさんありますから、アメリカの奨学金制度の充実ぶりには感心してしまいました。
会社でアメリカ人に聞いたところ、奨学金は成績の優秀な生徒と運動の優秀な生徒が得る事ができ、大変名誉な事だと言っておりました。
アメリカの平等とは

卒業式に参加して感じた事は、生徒はこんなにがんばった、良くやった、という事を具体的に結果を出してそれを披露する場であって、只の儀式ではないという点でした。

校長先生以下、誇れる生徒をいかに多く出すか、これに腐心しており、先生もこの卒業式で「自分たちの指導の成果」をみんなに披露するという場とという意味があったように思います。

成果とは、進学率であり、有名校であり、奨学金の獲得総額であり、州の教育委員会からの表彰件数であり、優秀なスポーツ選手の数という、「具体的な、目に見える成果」の事を言います。

この結果は即、新聞に出ます。
又、不動産会社がこの結果を即、利用します。
つまりここの高校は、こんな順位である、ここの家(地域)をお買い下さい、という具合です。

それにより、不動産の値段が上がります。という事はある収入レベル以上の人しか住めなくなる、という結果になります。つまり、高額納税者の地域になります。
結果として、どうなるか。
先生の給料に反映されるのです。(アメリカでは学校単位で先生の給料が違います。)

ですから良い学校はますます良くなる、そうでない学校はますます荒れる、という循環になるのです。
ここコロンバスでもダウンタウンの南及び南東地域は、昼間はそうでもないのですが夜は近付かない事というのが常識です。

そのような地域の学校はちょっと想像もできない状態のようです。
アメリカは住んでいる地域で、その人の収入がはっきりとわかりますし、それで受ける事のできる教育のレベルも決まってしまう、そんな国なのです。

WKHSの卒業式は、儀式ではなく、アメリカの平等主義にもとずいた「成果を披露する」場でした。
アメリカの平等とは、階層、階級でくくり、それぞれの中で機会の平等を与える事のような気がします。
階層,階級を超えての平等はあり得ないし、まして結果の平等なんてそれこそ不平等で訴えられそうな社会なのです。
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