密造酒造り?酒はキチガイ水?
お酒、いやドブロクを作ろう!

こちらに来る前に私は東京近郊に住んでおり、勤務は本社でした。
そんな中である年の3月、帰宅途中の居酒屋で若い連中と杯を傾けていたときに、ひな祭りの甘酒の話から「ドブロク」の話になりました。
日本では個人がお酒を作ってはいけないのですが「甘酒を作り間違える」とドブロクになる、という話でした。

そうか、作り間違えるといいのか、と妙に考え入っているといっしょにいた女性が「私の田舎ではみんな作っていた。」と言い出し、さらに「私も飲んだ事がある。」と曰うではありませんか。

作り方を聞いたり、どんな味がしたとかとか酔っぱらいながら散々聞いたのですが、殆ど忘れてしまいました。

一回作ってみたい、どんな味がするのか、その時以来大いに興味があったのですが、やはり違法行為であるという点がどうしても引っかかり、自分で作る気にはなれませんでした。

その後アメリカ駐在になって、周りのアメリカ人に自分でビールを作ったり、ワインを作ったりしている連中が結構いる事を知り、特にアメリカでは違法ではないという事を知りました。

そこで再び思い出したのが「ドブロク」作りだったのです。
材料をどうするか、どうやって作るのか?

材料は「お米」と「麹」が必要な事は覚えておりましたが、麹がオハイオでは手に入れるのが殆ど不可能です。

そんな時に丁度私のところに日本からの出張者が来る事になり、麹を日本から持って来てもらうことにしたのです。
「お茶も、羊羹も何もお土産はいらない。米麹を持ってきてくれ。」

直後、私の隣の職場の同僚Tさんがビール作りに精を出しているのを知り、作り方を相談したところドブロクは知らないとの事。ところがラッキーな事に彼は翌週日本に行くので、本屋で本を探してきてくれると言ってくれました。
甘酒の作り方をどうやって間違えればいいのか、調べてきますという訳です。

材料は揃ったし、同僚が作り方を調べてくれるし後は待つだけ。
彼はちゃんと調べてきてくれました。いえ、本を買ってきてくれました。ドブロクの作り方の本が出ているというのは私は驚いたのですが、それには清酒、ワインの作り方まで書いてありました。
読むと更に材料としてイースト菌、そしてヨーグルト菌が必要な事がわかりました。

イースト菌はカミさんのパン焼きの材料なので、これを拝借すればいいのですがヨーグルト菌がどこで売っているのか見当もつきません。これもやがて解決しました。Tさんが探してくれたのです。

実はTさんもドブロク作りに興味を持って、日本に行ったときに本だけではなく、米麹も買ってきてあり、残りの材料を集めているところだったのです。

ヨーグルト菌はあるショッピングモールの中に、自家製ヨーグルトを作る道具を売っている店があり、そこで手に入れたとの事。結局ヨーグルト菌はTさんにもらう事にしました。米は20ポンド(9kg)が12ドルの高級カルフォルニア米買ってきました。

この時、カミさんが米は餅米がいいのではと言い出したので、普通の米ではなく餅米を使う事にしました。
よく聞くと、カミさんの田舎でも近所の人が昔ドブロクを作っていたとの事。
何だ、早く言えよ。
作り方は割と簡単

作り方はTさんの買ってきてくれた本に従ってやるだけです。
本には最終的な仕込みは瓶でやるといい、なんて書いてありましたが瓶なんてオハイオで手に入る訳がないので、日本から持ってきた大きな梅酒のガラスビンを使いました。

具体的な作り方は省略しますが、予め麹とイースト菌と蒸かしたお米ででタネを作り、これを別に蒸かしたお米と麹に放り込んで後は待つだけ。水も少し入れます。
従って最初は堅めのお粥といった感じで、本当にこれが酒(ドブロク)になるのかしらん、と不安で一杯。


最初なので失敗するかも知れないと思い、当初計画の3升を止めて2升弱に縮小。ビンに入れて4−5日もすると泡が出てきて盛んに発酵しているのがわかります。

1週間もすると甘酸っぱい匂いがして、確かに甘酒のような状態になります。
私はここでこらえきれずに味見をしてみましたが、なんとも言えない微妙な味がしてもうワクワクでした。

会社から帰ると真っ先に地下室に行き、育ち具合(?)を気にしている私をカミさんと娘は冷ややかな眼差しで見ておりました。
利き酒会

同時期に仕込みをやっていたTさん、2人が顔を合わせると育ち具合の話をヒソヒソ。泡が止まったとか、アルコールの匂いが強くなってきたとか、子どもを育てている感じ。

仕込みを開始して2週間。できました、ドブロクが。
ここで発酵を止めるためにワインのビンに移し換えて、冷蔵庫に入れておしまい。
Tさんと私はお互いの作品を持ち寄って、ある先輩の家で利き酒会を開く事になりました。ツマミはスルメだけ。

お互いのドブロクを飲み比べてみると明らかに味の違いがある事がわかります。アルコールの濃度は日本酒より少し弱いようですが、杯を重ねていくと確かに酔っぱらってきます。その味は何とも表現のしようがない、今まで一度も口にした事のない微妙なものでした。
少し甘みがあるし、コクがある味わいなので3人で一致した意見として、アテは「冷や奴」が最適であるという評価も下しました。

実に他愛のないドブロク作りでしたが、日本では御法度の行為であるという心理も手伝ってつい熱中してしまいました。ドブロクから清酒の作り方もその本には載っておりますが、私はこれはやってみようという気は全くありません。

このドブロクも年中作るつもりはありませんが、1年に1−2回は作ってもいいかなと思っております。
ちなみにTさんはほぼ常時、ビールの自家生産を行っており、私も時々ご相伴に預かっております。

酒はキチガイ水って言いますけど、何かに熱中するというのは、いい事じゃないですか。ネ?
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