12−03−08 私の読書室
最近出張が多く、ほぼ毎週どこかに行ってます。出張は電車とかに乗るのが苦痛な人だと大変かも知れませんが、私は電車に乗るのは嫌いではないので移動は苦にはなりません。
例えば栃木に行くときは往復で7時間、近鉄と新幹線に乗る事になり結構長い時間と言えます。

東海道新幹線の名古屋東京間は出張とおぼしきサラリーマンが恐らく80%以上で、みんな座席で何をやっているかそれとはなしに観察をするのも楽しいものです。
何をやっているかは乗る時間帯によってかなり違います。

午前中の新幹線はそれぞれの行き先での仕事の準備をする人が目立ちます。PCの電源を入れて資料のチェックをしたり、明らかにプレゼンの練習をしているとわかる事をやっている人もいます。
夕方から夜に見られる、ピーナッツをかじりながらビールを飲んでいる人はこの時間帯は見掛けません。

仕事関連をやる人以外に目立つのは、やはり本とか新聞などを読む人です。
これは昔から電車の中での時間つぶしの定番の一つですね。それ以外にイヤホーンでラジオを聞いている人、携帯メールを見ている人など様々です。
でも何もしないで外を見ている人、居眠りをしている人、これが一番多いかも知れません。

私の場合は別段変わった事をする訳ではなく、一般的な時間つぶし方法の”読書”と”居眠り”、この2つがメインです。
そんな訳で以下、最近読んだ本で印象深く面白かったものです。
1.「反原発」の不都合な事実:藤沢数希(新潮新書)  ★★★★★

311以降、原発を絶対悪と決め付け、その廃絶こそが「正義」という論調がマスコミでは吹き荒れています。この「正義」を実行すると世の中は具体的にどうなるのかという観点が殆ど取り上げられないこと、放射能を浴びるとはどういう事なのか過去の例から何が言えるのか、などがゴチャゴチャになって整理できず私はイライラしていました。

でもこの1冊が私の殆どの疑問に対して答えをくれました。
原子力発電を止めると命が守れるのか、放射能のリスクとは、自然エネルギーの不都合な事実とは、救える命の数と経済の豊かさの関係について、化石燃料と地球環境問題の関係について、原子力を理解する最低限の知識、エネルギーの未来について、等です。
新幹線も隣りに誰もいないとゆったり読書ができます
この本を読んで注目をしたことが2つありました。

1.化石燃料を使って発電を続けると、そのCO2の排出によって環境破壊が加速されて、それが膨大な人命を奪う。

2.国には経済が強くて多くの国民の命を守れる国と、経済が弱く国民の安全を確保できない国の2つしかないこと。
経済と命の間にトレードオフなど存在しないこと。


原発問題をイデオロギーで論じる人が非常に多い中、この著者はその対極から原発問題を論じている人です。

つまり原発を科学的に見て、人間社会でこれを使うという事に対してリスクを数字で整理し、結論を導いているのです。

「感情論を超えた議論」のためには必読の本で、極端な言い方をすると原発を口にする全ての人が読むべき本と思いました。700円で206ページのこの本、速読の人なら1日、ゆっくり読んでも土日で読めてしまいます。

2.国民ID制度が日本を救う:前田陽二/松山博美(新潮新書)  ★★★☆☆

日本も国民IDが導入されようとしています。これは40年以上前にも導入が検討されたのですが、当時の社会党の猛烈な反対で実現をしませんでした。
国民IDは先進国で導入していないのは日本くらいなものですが、反対の理由は「国家による個人管理の強化であり、人権侵害にあたる」、というのが表向きの理由です。

しかし実は反対の本音は別なところに大きく2つあるのですが、これを誰も言いません。

ひとつは個人の財産がまる裸になる可能性があること、もうひとつはあらゆるところで行われている個人の「なりすまし」が非常に困難になる事です。

私はアメリカに14年住んでいてアメリカの国民ID(SSNという)が日常生活の中でどういう位置付けのものであるか、詳しく説明できます。

私がオハイオに赴任をして翌日に行った事は、SSNの取得手続きでした。

ズバリ、SSNなしでは旅行者とかの短期間在留以外、アメリカで合法的に生活をするのは実質的に不可能であると思っても差し支えありません。

この本は国民ID制度導入のメリット、デメリットについてきちんと書かれています。
何よりの大きなメリットは、日本の行政システムを根本的に変える起爆剤になる事だと書かれています。オハイオ生活の体験と日本を比べると、全くそのとおりだと思います。

国民ID制度導入で個人のプライバシーが守れなくなるという危惧に関しては、では今は国民のプライバシーを本当に尊重しているのか? という切り口で著者は現状頻繁に起きている行政犯罪を例に出して、逆に国民IDの導入によってこれらが防げる、と説いています。
私もこれに同意できます。

便利で公平で安心できる社会を目指すために必須の国民ID、「導入をするか、しないか」の議論ではなく、「どうやって導入するか」、の議論に進みたいものです。
このは国民ID制度とは何か、何がメリットか、ディメリットはどこあるのか、極めて具体的に教えてくれる本です。
3.さようなら!僕らのソニー:立石泰則(文春新書)  ★★★★☆

我々の世代にとってソニーは格別な存在でした。ソニー製品に最初に触れたのは昭和35年頃に父親が買ってきたポケットラジオでした。(TR620という製品で、オハイオにいた2年前にe−bayでこれを見つけ、見境なく瞬間的に買ってしまいました。)

次に思い出すのはテレビコマーシャルです。これも同じく昭和35年頃だったと思います。
「ソニー、ソニー、ソニー、S・O・N・Y、ソニー、、、」、というテーマソングで、今でも全部歌う事ができます。歌と一緒に出てくる、「SONY坊や」と言うキャラクター人形があって、これが何となく鉄腕アトムのイメージにダブっていたような記憶もあります。
名古屋まで40分、読書をしているとあっという間です
その次はテープレコーダーで、これは私が中学校に入学するので、父が英語の勉強用にという事で買ってくれ、昭和39年で2万円だったと記憶します。

その後ソニー製品をいろいろと買いました。
言えるのはソニー製品とは「高性能、高機能、高品質」の代名詞であり、他のメーカとは全く別格の存在でした。

ソニーは巨大な企業になり、湯余曲折はあったものの2000年くらいまではそのイメージを維持していました。
しかしソニーはいつの間にかカイジンが社長になり、2012年3月期では2000億円以上の赤字を出す会社になってしまいました。

最近はヒット商品も出していなかったし、殆ど顔の見えない会社になっていました。
どうしてこうなったか?この本を読んでよくわかりました。

ソニー創業者のひとりである盛田昭夫とその直系の人達ががどんな考え方でソニーという会社を育んできたか、この本を読むと簡潔にわかります。
そんな優良企業がどのようなステップを経てこうなったのか、この本はソニーの凋落を描いたドキュメンタリーですが、読んでみた感想はズバリ”推理小説”ではないかと思えるストーリーです。

私の知り合いで、かつてソニーでそれなりの立場で活躍をされていた方から、この本の感想を頂く事ができました。
「一部舌足らずなところはあるものの、事実に基づき客観的に書かれていますね、自分が当時おかしいな?と思った事が実はこうだったのだ、と今になってこの本で理解できたところもありました。」

超優良企業がどうやってダメになっていったか、非常に興味深い一冊です。
こういう新書、文庫本等を読むのはオハイオにいた当時から1ヶ月にせいぜい4〜6冊のペースですが、何年も経つとバカにはできない量になります。でも私は本は何となく捨てる事ができない性分です。あとで何回も繰り返して読む本というのはそんなに多くはないというのはよく知っている、にもかかわらずです。

ところろが便利なサービスがある事を見つけました。本を送るとそれをスキャナーで読んで電子ファイルに(PDFファイル)してくれるサービスです。
そして料金が本当かな、と思うくらい安いのです。
250ページの普通の文庫本なら100冊で1万円〜1万5000円くらいなのです。

個人でもスキャナーを買ってきて電子ファイル化できない事はないのですが、自動で連続してページをスキャニングするためには本を綴じ目のところからきちっとカットする必要があり、このカッティングの道具がかなり高価なようです。
ですから自分でやるよりもお金を払って誰かにやってもらった方がいいという人も多い。

しかしこのサービス著作権の観点から問題視されており、訴訟になっているとも聞いています。
非合法サービスにならないうちに持っている本を全部やってもらいますかね〜、、、。
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