11−01−13 アメリカの新幹線
私は毎朝自宅を7時15分に出ます。会社の駐車場までは自宅から10km弱しかありません。
ところがこの駐車場に着いて車を降りるまで25分かかります。つまり平均時速20km程度でしか走れません。
道路が車で異常に混んでいるので仕方ありません。

私は今の工場に通勤をするのは24年ぶりなのですが、24年前の道路はこんなに混んでいなかったと思います。
24年前の方が従業員の数も多かったし(1万人以上いたと記憶しています)、生産規模も大きかった。なのにどうしてこんなに道路が混むのでしょうか。

ちょっと観察してみるとすぐにわかるのですが、24年前との違いは大型のトラックの往来が異常に多く、これが最大の原因になっている点です。
ではナゼ大型トラックがこんなに多くひっきりなしに走るのか、大型トラックは全て工場に部品を運ぶトラックです。

24年前との違いを考えてみると、工場の生産システムが大きく変わっている事に気がつきました。
そうです、ジャスト・イン・タイム方式に変わったのです。
ジャスト・イン・タイムとは簡単に言うと親工場で作る分だけの部品が部品工場から供給され、親工場には部品在庫を持たない、という方式です。

親工場は極力在庫を持たず、部品は必要なだけ、必要な 時に親工場に供給する事を要求されますので、部品工場は小分けして親工場に部品を供給する事になります。
結果、親工場の周囲はこれらの部品納入のトラックでごった返すという現象をもたらします。

このジャスト・イン・タイム生産方式は世界中で工場の生産システムの模範とされた事があります。基本的な考えは「ムダを省く」というところにあるのですが、親工場側はこれが成り立っても部品工場、交通への影響、輸送エネルギーなどのトータルで見た場合どうなのでしょうか。

私は生産システムの専門家ではありませんが、24年ぶりに今の工場に帰ってきてこの異常な交通渋滞を見て、かなり考えさせられる現象です。
24年前に比べて従業員の数も、生産数も3分の2になっているのに、交通渋滞は2倍になっている、ジャスト・イン・タイム方式は本当に最適な生産システムなのか疑問です。
省エネにもマイナスだと思います。誰か教えて下さい。
アメリカ国内の交通機関は主として車と飛行機です。鉄道というのは石炭とか大量の貨物とかの輸送機関としてありますが、人などが利用する交通機関ではありません。
人を乗せる列車もありますが、大都市近郊のごく一部と、列車の旅そのものを楽しむための観光用として存在するだけです。ワシントンDCの中央駅

ところがそのアメリカが高速鉄道網の整備に乗り出しました。
大きくは全米で3つのネットワーク、東部ネットワーク(NY、ボストンからシカゴ近辺)、南部ネットワーク(フロリダ半島付近の大都市)、西部ネットワーク(カルフォルニア州内の各都市)で、日本、韓国、中国が売り込みをやっているそうです。

このアメリカの新幹線計画については投資計画がメチャクチャ(俄然少なすぎる)という専門家のコメントがありますが、第一期の完成が2020〜2025年だそうなので、その頃にアメリカに行けば乗れるかも知れません。

でもアメリカの新幹線ネットワーク、アメリカで生活した経験からいくと、果たしてうまく機能するのかいろいろと疑問だらけです。

日本は鉄道で人が移動するインフラが整っている中へ高速鉄道を作った訳ですが、アメリカは鉄道で人が移動するインフラはごく一部の大都会を除き、ゼロであると言っても差し支えないと思います。
例えば駅と目的地を結ぶ輸送手段です。鉄道だけピカピカの新品でネットワークを組んでも駅までは何で行くのか、日本は在来線という鉄道、地下鉄、バスなどが発達しています。
シカゴ中央駅
アメリカでは結局は駅までは車で行くしかないわけで、着いた先でも同じく車しかありません。
つまり新幹線の駅は今のアメリカ国内の空港のような広大な駐車場と何百台、何千台ものレンタカーを準備しておく必要があります。
決して東京駅とか名古屋駅のようなコンパクトな駅にはならないと思います。

次に乗客の手荷物ですが、アメリカ人の旅行時の持ち物の多さは日本人の比ではありません。
日本の新幹線にアメリカ人の旅行者が1人でも乗ろうものなら周りはとことん迷惑をするのが普通ですが、みんながあの状態になると思えばいいと思います。

ですからひょとしたら列車の半分はこれらの荷物を収納するスペースになる可能性があります。

スイスのローザンヌからパリまでTGVに乗ったときに驚いたのは、長距離バスのように列車の下半分を貨物室になっていた事でこれの乗せ下ろしでホームがごった返していたことです。

ヨーロッパ人の旅行での持ち物はアメリカ人よりうんと少ないのですが、それでもあの状態ですから、アメリカで新幹線を走らせればどうなるのでしょうか。
いずれにせよ、車両は日本の新幹線のようなコンパクトなものではなく、かなり大きな車両になると思います。
切符の発行システムは日本より格段に効率が悪くなるでしょう。JRの緑の窓口の職員の切符発行の手際よさとスピードでアメリカ人が同じようにできるとは到底思えません。
路線を2つ3つまたいで買ったりしたら、1人の客への切符の発行に何分かかるか予想がつきません。
シカゴ中央駅のホーム、暗いです
そこで切符の自動発行機を使うことになるのですが、アメリカでは機能を絞り込んでもっと簡略化する必要があると思います。
日本のような自動発行機のあの操作を、一般的なアメリカ人がスムーズに行えるとは思えません。

アメリカでも日本の新幹線のように1時間に4本も5本も走れば問題はありませんが、そうでない場合は確実に指定の時間に乗るために、切符の購入は予約が中心になるでしょう。

駅に行ってから時計を見ながら乗る列車を決める、という方法はアメリカでは一般的にはならず、結局シャトル的な乗り物にはならないような気がします。

料金については、かなり高額になる可能性があります。
先ず1両当たりの輸送効率ですが、先述のように貨物スペースの件、それに彼らの体格からいくと日本の普通席のようなスペースでは無理で、多分日本のグリーン席くらいの余裕にする必要があると思います。
1両当たりの乗客数は日本の半分以下になるはずです。

また日本が設計した新幹線のエネルギー効率を追及した軽量車両は、アメリカでは既に受け入れられない事がわかっています。
事故が起きた時の安全性があまりにも低いと言うのです。アメリカは「事故はおきるもの」、という事を前提に新幹線を考えているので、結局は超重量級の列車になってエネルギー効率は日本と比べてうんと低いものになるそうです。
シカゴの通勤列車(2階席)
運行される列車の本数ですが、これは利用する人の数で決まりますが、利便性を維持するためには1時間に1本以上の本数は必要です。

1時間に1本とはうんと田舎のローカル線並ですが、現在のSF⇔LAの列車が1日に4〜5往復であることから考えると画期的な本数です。

本数が少ないと利便性が向上しないので利用客数が伸びすコストが上がる、多いと輸送効率が悪くなってコストが上がる。

アメリカは利用乗客数をどのように見込んでいるのかわかりませんが、いずれにせよ採算維持のために運賃・料金はかなり割高になると思います。

こうなると料金の面で飛行機に勝てず、元々スピードでは飛行機に勝てず、ドア・ツー・ドアーの便利さでは車に勝てず、アメリカの新幹線は中途半端な存在になる可能性が非常に高いと思うのですが、いかがでしょうか。

私は鉄道輸送の専門家でも何でもなく、ただアメリカに住んで、そしてあちこち旅行した経験からだけの意見なので、全く見当違いの目論見かも知れませんので悪しからず。
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