05−02−14 オハイオ人、スペやん

私が初めて今のオハイオの会社に出張で来たのは1987年、今から18年前です。
果てしなく広がるとうもろこし畑の中に建てられた巨大な工場に目を見張ったものです。従業員は既に6000人を超えていたと思います。

コロンバスの朝夕の車のラッシュも今とは比較になりませんでした。まだ全体がかなりのんびりとした雰囲気でした。
会社は急速に成長していましたが、技術部門の従業員でも中心はまだ地元のアメリカ人が中心でした。

そんな中で私が訪れたある部門に通称、「スペやん」、本名ティム・スペンサーという地元出身の社員がおりました。まだ入社したばかりで、ある日本人駐在社員がスペやんを何とか一人前にしようと、図面の読み方とか、テスト機器の使い方とかを教えていたと記憶しています。

そして、この日本人駐在員、スペやんが何か失敗をすると、「おいおい、何をやっとるんじゃい!違う、違う!」、と丸めた書類で、頭をポンポン叩いていました。今これをやったら大変な事になると思いますが(当時でも大変な事なのですが)、スペやんはニヤニヤしながらその日本人駐在員の言う事を聞いていました。

その9年後、私はオハイオに駐在社員として赴任をしました。何と私の部下の中のにこのスペやんがおりました。
スペやんはやはり技術者としての仕事は無理でしたが、100人の所帯だといろいろな仕事があり、スペやんはある特定の領域の仕事のエキスパートとして今もそのポジションで毎日を過ごしています。

何故か私はスペヤンを見ていると、心が和みます。昨日そのスペやんを含む5名ほどと会議を行いました。スペやんが入った会議なんて、2−3年ぶりです。私はスペやんが大好きです。今日はそのスペやんの事を書いてみます。

スペやんは日本語がしゃべれます!?
私は、彼を呼ぶときはティムとか、MR.スペンサー、とか言いません。「SUPEYAN」、つまり、「スペやん」、です。
彼は、「YES」、という返事をしません。「HAI」、と言います。日本語です。「おいスペやん。」、「ハイ」。これだけ聞いていると日本語の会話です。

スペやんは汚い格好をしています。
スペやんはかなりヨレヨレの服を着ています。イエ、ものすごく汚い服を着ています。あごひげを一杯生やしています。一度だけ、私のカミさんと娘がスペやんを近くで見たことがあります。
「何、あの人。あれお父さんの会社の人?スゴイ!!!」、というのが娘の感想でした。場合によっては、近寄るのに少し勇気がいります。

スペやんの奥さんはキレイです。
スペやんは今確か47−8才だと思いますが、結婚したのは6年くらい前です。私はスペやんは結婚できないのではないかと思っていました。
でもそのスペやんが結婚しました。「SHIN、これがオレの彼女、おっと今はワイフ。」と言って見せてくれた写真を見てびっくり。エライべっぴんさんでした。実物もパーティーで見ました。金髪の目もパッチリしたやさしそうな女性でした。

スペやんは大酒飲みです。
随分前の事ですが、ある駐在員がスペやんに個人的な家の用事を頼みました。
スペやんは地元の人間なので大きなトラックとかを持っているからです。その駐在員はお礼にスペやんにウイスキーを1本あげたそうです。
スペやんはそれを帰りの車の中で、家に着くまでの1時間で全部飲んでしまったそうです。「あのウイスキー、うまかった。喉が渇いていたので、ちょうど家に着くまでに空っぽになった。ありがとう。」

スペやんの先祖はどこの国か
スペやんは今はオハイオ人(アメリカ人)です。先祖はどこでしょうか?スペやんは時々、「アミーゴ」、とか言います。
それにパーティでは時々メキシコ人の格好をしてきてダンスをします。スペやんはメキシコ人か?メキシコにはスペイン系の白人が一杯います。
この系統かな?パーティーでは確か、「リーバ、リーバ」、とか言って叫んでいます。でもスペンサーという苗字はイギリス系です。

スペやんの趣味は車です
スペやんは車を20台くらい持っています。1950年代、60年代前半のオープンカーとか、我々が子供の頃にテレビで見た、アメリカのホームドラマに出てくる、あの車が主体です。
写真を見ると大きな納屋が何棟もあり、その中に入れてあります。部品を特注で作ったり、買ってきたりして、メンテナンスしているみたいです。一度見せてもらいましたが、やはりスペやんの服と同じで汚かったです。

スペやんは英語ができます
随分前に、日本の大学の入学試験の英語の問題をやってもらったことがあります。なぜスペやんにやってもらったのか理由を忘れましたが、100点満点でした。そしてきちんと説明をしてくれました。
なぜこんな事を書くかといいますと、私は外国人とかが受ける日本語検定1級の試験問題を日本に行った時、本屋で立ち読みしながら解いてみました。
全然できませんでした。難しいのです。あれって。
日本人だから、日本語ができるというのは間違いです。同じく、アメリカ人だから英語ができる、これも間違いです。

スペやんは絵がうまい。
絵というよりもスペやんはちょっとしたイラストが非常にうまいのです。部品のスケッチもうまく書けます。スペやんは技術者としてはもう現役ではありません。でもイラストレーターとしては我がDEPではトップです。

スペやんは全米の主要な都市の事をよく知っています
スペやんの今の仕事はあちこちの港とか、町に行ってちょっと特殊な仕事をコーディネートすることです。
全米の主要なところをよく知っています。私もボストンに家族旅行するときに、スペやんのアドバイスを受けました。
「SHIN、この付近のホテルはヤバイ、こちらがいいですよ。」とか、地図を見ながらいろいろと教えてくれます。

スペやんの机の上はものすごく散らかっています
すごいです。書類が散乱しているので、机の表面は全く見えません。
今では誰も、片づけろ、と言いません。ちょっと綺麗にしても半日で元通りの汚さに戻ります。スペやんの机を横目で見ながら、みんなニヤニヤして通り過ごしていきます。
スペやんは今日もその机に向かって仕事をしています。


スペやんは不死身です
スペやんは脳腫瘍で大手術をして生死の境目をさまよいました。4ヶ月の休職の後、無事に会社に来ました。半年ちょっと前には会社の前で大交通事故を起こし、ヘリコプターで病院に担ぎ込まれました。でも奇跡的に軽傷で、2日の入院後、会社に出てきました。

そしてスペやんは他のオハイオ人にもナゼか、人気があります。

世の中の事があまり良くわかっていない、ある日本人駐在社員のXさんが私にこう言いました。
「ここは純粋な技術部門だ。技術部門は頭脳集団だ。優秀なヤツを集めればもっともっと力が出るハズだ。」

真剣な顔で言うXさんを前に、「オマエなー、、、」、と私は申し訳ないと思いつつも、つい心の中でせせら笑ってしまいました。そんな事は、小学生でも言える事なんだよなー。
制約された条件下(給料、ポジション、他)で、人を採用、組織を運営しているというのが実態なのだから、優秀な人を希望するよりも、今の手駒の中で、どうするか?という事に腐心ををしなくてはならないんじゃないの?

私の尊敬するある大先輩が言いました。
「大阪城の石垣を見ろ。巨大な石だけではなく、いろいろな大きさの石が組み合わさって、あの石垣が出来上がっている。私が君に何が言いたいのかわかるよね。」

実は私は日本にいたときに、上司であったその人に、オハイオの会社の日本人Xと同じような事を言ったのです。
「今の要員では新しいプロジェクトが頓挫する可能性があります。もうちょっと優秀なのが欲しい。」、と。
そしたら答えがこれでした。

世の中にはいろんな人がいます。会社にもいろんな人がいます。みんなそれぞれ一生懸命やっています。私は何よりも先ず最初に、この事実を受け止め、そして次を考えたいと思います。

難しい話はともかく、私はスペやんが大好きです。理由を聞かれても、言葉には表せません。たぶん、私にはない、何かが彼にはあるからだと思います。でももうちょっと清潔な格好をして欲しいナー、、、、。

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