99−12−2 がんばれ、ケンジ
きょうの夕方、外出からオフィスに戻ったところあるアメリカ人のアシスタントマネージャに声をかけられました。
「SHIN、このレター知っていますか?」

それは彼の部下の一人が今月の17日で会社を退職したいという本人からの退職届けのレターです。私の会社は退職をする前は2週間前に上司に通知をするという決まりになっております。私のメールボックスにも入っておりました。

ありゃー、これはKENJI君ではないか。そう、日本人のケンジ君なのです。
私の部門には約70名が在籍しており、日本からの駐在社員3名以外は全員ここの現地法人の採用社員です。
その中の唯一の日本国籍の社員が、ケンジ君なのです
私の職場には東洋人が2名、黒人が2名、インド系が1名、それ以外は全員いわゆる白人です。白人と言ってもいろんなのがいて、金髪青目の典型的なのから、様々です。
いわゆる苗字を見ると、何となくその人の出身がわかる時があります。

ケンジ君は私の会社に就職して4年少し、日本人らしい真面目な長身の青年で好意を持っておりました。
しかし、彼は日本人、私も日本人、周りにわかるような接し方をするのはタブーです。何かの時に、人種問題で他の連中からチクられる可能性があるからです。従って、私は他のアメリカ人と同じ様な接し方をしておく必要がありました。

ケンジ君は10才くらいまで日本にいて、その後大学までずっとアメリカの学校に通い、今の会社に入ったのですが、日本語はあまりしゃべれません。17年間でこんなに忘れてしまうものかと驚く程です。
彼のアメリカに来てからの生活を聞いた事がありますがいろいろとあり、英語を覚えようとした努力と同じくらいに、日本語を忘れようとしたようです。

両親はケンタッキーにおり、父親は貿易会社をやっていると言っておりました。母親は英語があまりうまくないそうで、ではお母さんとはコミニケーションに困るのではという質問に対しては、返事をしてくれませんでした。
ですから彼と私は会話をする時は英語でした。

ケンジ君は会社を辞めて何をするかというと、テキサスの大学に再び戻り、修士をとるという計画になっております。アメリカは日本とは比較にならない学歴社会で、学部の卒業だけですと普通の会社ではかなり不利なのです。

私はアメリカに来て3年半ですが、私の職場からは既に30人近くの社員が退職しております。理由は様々ですがもう一度学校に行くという理由での退職は確か2人目で、殆どがより高い待遇を求めて他の会社に移るというケースです。

職場を見ていると、はっきりと2つの層に別れているのが分かります。まず会社を辞めないだろうと層、そしてもう一つはいいところがあったら直ぐに辞めてそちらに移るという層。
大体半々の感じです
力(実力)と力がぶつかり合う厳しいアメリカ社会で生きて行くためには、彼の選択は間違いではないと思います。日本人というハンディキャップも乗り越えなくてはならないし。

彼は父親の仕事の関係で日本を出て、アメリカという雑多な人種の中でやがて日本人ではなく、アメリカ人になってしまう一人なのでしょう。
もう、日本語をしゃべる事もなく、日本に住むこともないのでしょう。

ケンジ君、頑張れ
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