日本人生徒の家庭教師 : こんなイイ商売はない
ハンディキャップを乗り越えるために

小学校3年生以上の子どもが、アメリカに来て現地校に入学した場合、それぞれ大変な悩みを子ども、そして親は持つことになります。

私達の場合、娘は高校1年生を終了した時点でこちらに来て、全くの現地の高校に入学をしました。勉強の中身を理解する、という前に英語のハンディキャップをどう乗り越えるか、これが大きな課題で、今でも大きく残っております。

勉強の進め方も違います。そこで、これを補うために、家庭教師を雇い、学校での復習を中心に教わるという方法を取らざるを得ません。
それに宿題もたくさん出ます。
こちらの宿題は、プリントを渡され、それをやってくる、という形式の宿題は殆どありません。
大抵は、課題を与えられて、それを調べ、レポートを作る、というもので、時には大変骨の折れるものです。
同時に、日本人の生徒はこのような勉強のやり方に、殆どと言って良いほど慣れておりません。

この辺のところも、家庭教師の助けを借りてやらなくてはなりません。中には殆どやってもらうというケースも出ます。これはやむを得ないと感じております。

学校の成績は、この宿題が大きな比重を占め、先ず提出期限に出したか、出さないかがポイントになります。次に中身です。そしてその中身は誰と一緒にやったか、或いは極端に言うと、誰がやったかはあまり問いません。

先生は多分、宿題を誰かがやったとしても、それを本人が理解をし、自分のものにしている、という前提に立っているのではないかと思えます。
何故なら、提出はその本人がしている、つまりその子が、自分のものとして出しているのだから、という考え方のような気もします。
このヤロー、なめるなよ!

とりあえず、新学期(9月)を迎えると同時に、ある家庭教師を紹介してもらいました。
家も近く、娘の通う高校の卒業生で、オハイオ州立大の学生の女の子でした。英語の授業で、英語の教科書なのだから、家庭教師も英語で受ける、つまりアメリカ人の方が良いだろうと考えました。

週に2回、こちらは金曜は基本的に宿題を出しません。そこで、火曜日と木曜日の2回、2時間ずつを頼んで、やってもらいました。
私何度もどんなふうに教えるのか、夕方早く帰った時などに見せてもらいましたが、相手がわかろうとわかるまいと、一方的にしゃべっているだけの感じでした。

まあ最初はこんなものかな、と思っていたのですが日によっては大してやる事のない時でも、2時間はダラダラとやって行くというのをカミさんから聞いたのですが、それは英語の勉強になるから、いいのでは、と私の考えを言っておりました。

ところが、会話が遊びのようになっており、しまいにはトランプで遊ぶという事を始めたそうです。
ただ、その家庭教師はいつもニコニコして元気だし、その子の妹が娘と同じ学年という事もあって、まあイイかという姿勢で、続けておりました。

翌年の夏、上の娘が夏休みに来た時その子は、同じ大学生であるし、じゃ、オハイオ州立大を見せましょうと、2人の娘を連れだし、あちこち案内してくれました。ほう、結構親切じゃないかと見直したりしておりました。

夏休みが過ぎ、秋になったある日、その子は一通の手紙を置いていったのです。

「先日の夏休みの課外授業の件ですが、まだその費用をもらっていません。大学の案内、ボーリング場でのゲームそ
の他、で16時間、本来なら320ドルですが、160ドルで結構です。」


大体そんな内容でした。

何、課外授業をやったから160ドルよこせだと!
さすがの私も、頭に血が昇りました。
何でもはっきり言う、これがコツ

しかし私は直ぐに冷静になりました。このテの言い方は会社でアメリカ人がよくやるので、慣れていたからです。
この家庭教師は他の日本人の駐在者の子どもも教えており、かなり日本人駐在者の中では有名な家庭教師でした。


私は直ぐに手紙を書きました。

「夏休みは娘達に親切にしてもらってありがとう。お陰で上の娘も、いい経験をして喜んでおります。

ところで大学の案内等を課外授業と言っているが、誰が課外授業として私の娘達を連れ出す許可をしたのですか。
私は彼女たちの親で、私以外に彼女達に外出の許可をできる人間はいないのです。

つまり、あなたは私の娘達を勝手に連れ出して、大学に連れていったのではないか。事故がなかったから、あなたの責任は今のところは私は問わないが、これは幸いな事である。

私の許可なしに、娘達を連れ出して、あなたがこれを課外授業とする事は、私は認められない。もし、どうしても課外授業としたいのなら、この次から私に先ず話をして、それが課外授業にふさわしいか、どうか、私が判断する。

私は今回の事は、あなたの好意による行動であると解釈する。従って、あなたの車を使った事に対し、ガソリン代を払う準備はある。
走った距離を正確に教えて欲しい。」

21才のただの女子大生だと侮ってはいけません。相手はアメリカ人で、ダメモトでどんどん要求してくるのは目に見えております。

この辺は、我々日本人は理解できないところで、相手に先ず、ガーンと自分の要求をぶつけて、それからネゴにはいるという方法で、これは小学生くらいでも、事の大小は違いますが、大人に対してでも平気でやります。
人情は一切無用、にっこり笑ってもう結構

日本人だと物を相手に言う時、こんな事言ったら失礼かな?みたいなところがありますが、基本的にアメリカ人にはこれはない、と考えていいと思います。
このレターを娘経由で家庭教師に渡し、翌週私は少し早めに家に帰ってきて彼女に会いました。

「この前の私の返事は読みましたか?」
「イエス」
「何か意見はありますか。私の言っている事は全くの正しい事だと思うので,あなたは同意できると私は強く信じておりますが。」

この辺は英語は便利です。日本語でこれを相手の目を睨んで言うのは、私も多分できないと思います。
彼女はいつものようににっこりして、
「イエス」。
これで終わりなのです。後は、いつものとおり、全くしこりは残りませんし、残さないのです。これがアメリカ流です。

そして1月くらい経ったところで、
「もう、私の娘はあなたの助けなしに勉強ができるようになったと私は思うので、来週から家に来る必要はありません。ありがとう。」

これもアメリカ流です。ビシッと切るのです。課外授業の件を解決して、相手の「イエス」の返事を確実に取って、そしてこの問題を切り離したところで、別の理由でクビを切る。
これは日本、アメリカを問わず、お引きとりを願う時の常套手段ですよネ。

アメリカは年齢、性別に関係なく、私なんかでは信じられない要求、言い分、もう殆ど言いがかりに近い事を平気でやります。
次の家庭教師

実は、最初の家庭教師を雇ってから、しばらくしてやはり日本語のわかる家庭教師が必要だと思い、同じくオハイオ州立大に留学している、日本人の院生にこれをお願いしてあったのです。

この日本人の学生さんは日本の学校を卒業して、既に現役の獣医さんで、更に研究をするために、留学をしていた方でした。約1年間、アメリカ人と平行してお世話になりました。

なかなか熱心な方で、やはり理科を中心とした部分を教えてもらったようです。99年4月に日本に帰られてしまいましたが、再びワシントンにご主人の仕事の関係でみえると言っておりました。ご主人も獣医さんのようでした。

最初のアメリカ人が、とんでもない手合いでしたので、しばらくはアメリカ人を雇うのは躊躇しておりましたが、やはり社会とかの科目、そしてネイティブの英語に接するにはアメリカ人の家庭教師も必要と思い、再度探すことにしました。

見つけた家庭教師は、やはり女性で、学生ではない人です。最初に会った時に、何を教えて欲しいか、どんなふうに進めて欲しいか等、いくつかの条件をきっちり言っておきました。
幸いというか、今度は大変熱心な態度で最初とは大違い。大いに安心しております。

夏休みはこちらからお願いをして、娘にホームステイをさせてもらいました。更に、彼女は会社の同僚にもお願いをしてくれ、その同僚の家族の元でも、娘はホームステイを経験する事ができました。
家庭教師とどう付き合うか

アメリカでアメリカ人を家庭教師に招くというのは、予想以外に難しい事です。私達のように日本人の家庭教師を、しかも院生レベルの人を捜す事ができたのはラッキーで、普通はアメリカ人だけになってしまいます。

家庭教師に限らず、アメリカ人にはこちらが相手に何を望んでいるのか、具体的にきっちりと言う事が大切なような気がします。
日本人がよく言う、
「ひとつ、よろしく頼んますワ。」
は絶対に通用しないと改めて痛感しております。

これは頭の中では解っていても、私も日本人ですから、そこまで言わなくてもわかるハズ、と思いがちなのですが、どうもアメリカではこれは禁物のようで、かなり親しくなった間柄の人でも、「そんな事聞いていなかった。」、と突然言われる事がときどきあります。
聞いていなかった、と言われたときにどう受け答えするかのテクニックも、少しわかるようになってはきましたが。

ちなみに最初の家庭教師、今も日本人を相手にやっており、噂によると、1カ月のスケジュールを予め決める事を要求し、更にその費用の前払いも要求し、48時間以内のキャンセルはその費用を返さないという、条件を、ある家族に突きつけているそうです。

日本人って、交渉に弱いのですよネ。それに言葉の壁もあるし。
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