日本人生徒 : 半アメリカ人達
アメリカに来て

ここコロンバスはNYとかLAと違って日本人学校がありません。
ですから全ての生徒は現地校、つまりアメリカの学校に入学して勉強をする事になります。全くのアメリカの学校に、です。

私の場合教育関係者でもないし、娘は高校2年生の2月に来て合計3年間を過ごし、その中で間接的に学校を知る機会しかありませんでしたし、中学校、小学校の事は更に間接的にしかわかりません。しかし、駐在員同士が集まると、やはり子供の学校の事が話題になり、いろいろと聞いたり、意見を交換する機会は非常に多いと思っております。

アメリカに転勤をして一番苦労をするのが子供、二番目がお父さん、三番目がお母さん、と良く言われます。これは実に的を得た表現で、何と言っても子供達が一番苦労をするのは事実だと思います。

それも年齢に応じて、それぞれ苦労をして、そして今度は日本に帰って苦労をする。勿論小学生で帰国する生徒、中学生で帰国をする生徒、或いは私の娘のように日本の大学に入学するために帰国をする生徒、それぞれを一言でくくって論ずるわけには行きません。

中学3年生から高校1年生くらいでこちらに来る生徒、日本に帰る生徒の場合が一番問題になると言うか、生徒自信も親も悩むことが多いのです。

世界中には何万人もの日本人生徒が、親と同伴をして海外で教育を受けておりますが、日本の文部省の海外での日本人生徒達に対する、支援というのはあまりにもお粗末です。
年間の予算は300億円、自衛隊の戦闘機2機分です。

戦闘機2機分が何万人もの海外で学ぶ日本人生徒のための日本政府の予算は、多いか少ないかよくはわかりませんが、大げさに言えば海外に出た生徒はもう日本人とは扱ってくれない、逆に言えば勝手にやって下さい、というような印象を強く受けます。

日本に留学に来る大学生とかを、大幅に受け入れようという議論がありますが、その前に海外で教育を受けている、これらの小学生から高校生までの生徒達をどのようにするかが先決だと思うのですが。
小学生の場合

小学校低学年でオハイオに来た場合、学校にとけこむのはそれ程難しくないというのが定説です。例えば2年生で編入して6年生までの5年間というケースの場合、大体2年目くらいから学校の生活には慣れてしまうようです。

一番問題になると思われる言葉も、3年目くらいからは不自由なく授業もマズマズついて行けるというのが平均的です。但し、日本の子供の場合、積極的にしゃべろうとしない生徒が多く、これがアメリカ人の先生には「積極性がない」という事で問題になる場合があります。

アメリカの場合、いくらテストの点数が良くても、やる気がないと評価は低くなります。逆に言うと、やる気があれば結果が少々悪くても、評価は良くなります。ここが日本の評価制度と大きく違う点です。

またイジメについても、アメリカの学校でもはっきり言ってあるそうですが、先生に見つかった場合みんなの前で、イジメた生徒の方がつるし上げになります。という事は、見つからないようにやるのがイジメで、この被害に遭っている日本人生徒の話はちょくちょく聞きます。

3年以内で日本に帰国する生徒の場合は、例えば小学校の2ー4年生までいたという生徒の場合、日本に帰ってかなり苦労をするという話を聞きます。算数の九九を始め、漢字も書けない、全ての基礎学習が出来ない状態で日本の5年生に編入というのは大変なハンディーキャップになります。

小学生の帰国子女に対してハンディキャップを考慮してくれる学校はまだ少なく、勉強ばかりでなく、一般的な学校生活そのもので問題視されるというケースも多く聞きました。みんなと一緒の事をやる、おじぎをする、体育で整列をする、帰りには教室の掃除をする、と言った日本人では当たり前の事をやっていないので、生徒は非常に戸惑いを受けます。

日本に帰った時に小学生から中学生になるというタイミングの場合、何故か私は問題になったという話をあまり聞きません。それは多くの場合、海外帰国子女の受け入れ体制ができている学校を親が選ぶ、というパターンが多いからだと思います。

とにかく自由な雰囲気の中で過ごしてきた生徒にとって、日本の学校は堅苦しくて仕方がない、というのが共通の印象のようです。
それでも小学生の低学年で来て小学生の高学年、又は中学生で日本に戻るという生徒は問題は一杯あるものの、何とか順応できているというのが私の回りにいる駐在員の子供達のようです。
中学生の場合

最近は大分減りましたが、中学生を連れて来て現地校に編入するパターンの場合はいろいろとあるようです。先ず、言葉のハンディキャップ。これは小学生とは比較になりません。
例えば日本の中学1年生が習っている英語のレベルで、現地校の授業についていくのが大変な事は容易に想像できます。

それでも日本人の生徒の特徴として、通常数学がずば抜けてできるので、直ぐにみんなから注目を浴びます。数学ができる理由は、日本の小学生が勉強する算数は、こちらでは間違いなく中学生レベルであり、アメリカの一般的な生徒は四則演算を筆算ではできないのが普通で、3桁X2桁のかけ算を鉛筆で紙の上でやるというのは信じられないのです。

アメリカでは一芸に秀でた生徒は、他の事が少々出来なくてもそれを評価するというシステムなので、日本人生徒は大体が数学で自信をつけます。

それと運動が何かできる、これも重要な要素のようです。アメリカ人でも中学生までは日本人と体格的に変わらないので、体育が何かできるとこれも大変な自信につながります。但し高校になると、もうダメです。体格が全く違うので話にならないからです。

言葉のハンディキャップはあるものの、数学ができて体育ができる、この2つが揃っていれば何とかなる、なんて言っていた親がいました。確かに本当の事かも知れません。

しかし授業は先生が一方的にしゃべるというパターンは少なく、グループで討議をして、そして発表という形式が多いため、ズバリ言って口は達者になりますが、学問の基礎はかなり怪しくなります。
数学とか、理科の基本的な部分は非常に重要な部分だと思うのですが、これはあまり重要視されないのが特徴です。

歴史なんかも、歴史の流れをつかみながら、キーとなる変化を追っていくというパターンではなく、何か特定の部分を随分細かくやるだけで、日本とは相当に違います。

私の会社の場合駐在期間は通常は5年程度で、中学生で来た生徒は高校の2ー3年生で帰る事になり、小学生で来て中学3年生で日本に帰るという、いずれにしても「受験」という大きな関門が生徒達を待っております。

こちらの学校で勉強した内容では高校受験も、大学受験も絶対に120%合格しませんから、生徒達は塾(日本のような日本人生徒用の塾がある!)に行ったりするのですが、とてもじゃないが、特別な生徒を除いて日本のレベルのは到達できません。

そこで多くの生徒は各校の「帰国子女受験枠」というのを利用して受験をする事になります。
高校生の場合

ズバリ、会社もそして教育の専門家も、高校生をアメリカに連れて来て現地校に入学させるのは問題が多すぎるとして、推薦はしておりません。
但し、自分の意志で高校生留学をしたい、という生徒のケースは除きます。

別な項でも書きましたが、高校生以下と高校生以上の違いは「子供の世界」から「大人の世界」の違いです。拳銃ぶっ放すのもいます、車の運転はできます、マリファナもバンバン吸います、子供も産みます(託児所のような施設のある学校もあります)、体格は大人と同じです。

小学生から中学生、そして高校と現地校で過ごす生徒はここの学校での生活には問題はないと思いますが、日本で中学を卒業してアメリカの高校に入るのはかなり大変、というより大きなリスクを伴います。

登校拒否になる生徒はザラで、途中で日本に帰る生徒は多くいます。またしゃべらない(しゃべれない)ので、知恵遅れと思われ知能テストを受けさせられた子もおります。
英語が得意で、日本では抜群の成績を修めていた高校1年生の女の子がここに連れてこられ、学校1日目で自分の英語が全く通じない事にショックを受け、髪の毛が抜けて半年後に帰国をしてしまったというケースも聞きました。

勉強はそれ程ではないのですが、とにかく教科書はブ厚いし、理科系統の科目は普通の辞書には出ていない単語でいっぱいです。

じゃ、得意の野球で勝負してやろうか、と言っても大抵は入部のテストで不合格。
高校のクラブに入るために小学生の時からスポーツ塾に通っている連中ばかりなのです。それでもスポーツで優秀な成績を収めた日本人生徒もおりましたが。

授業のやり方は中学と同じなのですが、年間の授業のカリキュラムを自分で作らなくてはなりません。これが結構大変で、娘も悩んでおりました。
それと宿題が山ほど出ます。もうこれはパニックで、その宿題もあちこちを調べてレポートを作る、という形式なので骨が折れます。
最初は宿題を出された事自体がわからなくて、何でやってこなかった?と先生から問いつめられた事もあったようです。

人種差別も露骨にやられて、同じ東洋人の韓国人とか中国人からも執拗なイジメを受けるようになります。
それに高校卒業検定試験、これに受からないと「卒業」になりません。「高校課程修了」で、日本に帰って大学の受験も難しくなります。

日本の高校生にとっては四面楚歌の状態です。
どうすればいいの?

アメリカの学校生活に比較的順応している生徒に会ったり、話を聞くと幾つかの共通点があるような気がします。

1. 外交的な性格。これはよくしゃべる、よく笑う、という点にも通じます。黙っている子は大損をします。
2. 細かい事にこだわらない。まあ、こんなモンかな?で済ませられる子。
3. 何でもいいから一つだけでも他の生徒より勝っているものがある子。これが全くないと、アメリカ人の話題に上りにくい。
4. YES/NOがはっきり言える子。
5. 自分の自慢ができて、そして他人の自慢を誉められる子。
6. リーダーシップの発揮出来る子。


こうやって見ると、日本でも人気のある生徒と多分同じ要素である事に気が付きます。しかし、4.と5.6.は日本ではなかなか微妙な部分でしょう。

それにアメリカはチャレンジ精神を重視するので、過去に失敗をしたとかうまくいかなかったからと言ってしょげてるよりも、何回もトライするという点が大事です。そうしているうちに、そのような生徒には誰かが手をさしのべてくれるというパターンもあるようです。

寡黙でこつこつやる、というのは日本では割と皆の尊敬を集める(最近はそうでもない?)タイプですが、アメリカではそうでもないようです。
日本に帰った子ども達

幼稚園に行く前にアメリカに来て、高校生になる前に日本に帰った生徒の事を聞いた事がありますが、やはり基礎学力が全く不足しており、それにやたらと自己主張が強くて、仲間とうまくやっていけなかった、というパターン。

この場合日本の学校のやりかたとか、先生の指導の仕方とかがとかく話題になりますが、やはり本人の性格、姿勢によるものでしょう。結局この生徒は学校をやめたそうです。
アメリカの学校は一見、気楽です。嫌いな科目は最小限に勉強しておけばいいし、好きな事をやっていればいい、という感じですから。
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