15−08−01 伝えるとは
今年は日本が太平洋戦争に破れて70周年、巷では「戦争体験を語り継ぐ」、とか「戦争体験を知ろう」、というテレビ番組とか講演会,催し物とかが盛んに行われています。

内容はアメリカによる本土空襲、戦中の日本国内の生活、勤労奉仕などの体験談です。
特徴として、"戦争体験を語る⇒ 悲惨な目に遭わされた⇒ 日本は戦争をしてはいけない"、という、典型的な反戦ストーリー(戦争を先ず最初に、善悪で語る)が最初から出来上がっており、これに沿った内容になっているところです。

更に理由はいろいろと考えられますが、体験の中身は"銃後の体験"に偏っており、戦場での体験が取り上げられる事は殆どないという点です。

私は戦争体験と言った場合は、"戦場で日本人は何を体験したのか"、戦死した多くの人達も含め、これらの人達が、"後世に何を伝えたいと思っていたか"、を客観的に知る事が第一義にあると思っています。

そこで先ず、辛くも戦場から生還してきた人達の体験談に接し、戦場で何があったのかを知る必要があると考えました。

そしてこれを通じて「戦場でなくなった250万人の日本人の若者は後世に何を伝えたいと思っていたかを推察したい」、という趣旨から3冊の本を選んでみました。
■ 若き世代に語る日中戦争 <伊藤桂一著 文藝春秋> 

伊藤桂一氏は三重県出身の小説家であり自らの中国大陸での一兵士としての戦争体験、それに戦場にいた主として下級兵士に対する膨大なインタビュー・取材に基づいて多くの戦記小説を書いている人である。

この本はその伊藤氏が自らの体験とその後様々な人にインタビューをした結果から、日中戦争とはどんな戦いだったかを愛弟子からの問いに答える形で綴られている。

八路軍(共産党軍)と蒋介石軍(国民党軍)の違い、それぞれの戦い方、日本軍と一般中国人との関係はどうだったのか、軍管理の慰安所の実体は、実際の戦いの中で日本の兵士達は何を考え何をしたか、などが述べられている。

これを読むとテレビ・新聞などのマスコミが日中戦争について報道をしている内容と大きく違っている事に気付く。
南京事件については伊藤氏は経験がなく、インタビューを基に語っており、伊藤氏は南京事件は中国側の巧妙・狡獪な宣伝工作とそれに便乗した外国人記者が作り上げたもの、と言い切っている。

また日中戦争は日本軍、国民党軍、共産軍の3者が等距離にあり、日本は中国の内乱に巻き込まれて戦争になった点は見逃せない。

この本は最初から終わりまで殆どが下士官・兵の目線、つまり庶民の目線で日中戦争の体験が語られている。であるから飾り気がなく、生々しい。
政治的な意図とプロパガンダで脚色がされていない日中戦争の姿、そしてそれに従軍した当時の日本人青年達の生の声、この本は表題のとおり若い世代が読んでおくべき本の一冊と言える

伊藤氏は今の日本人が日中戦争の本当の姿を知らないのはアメリカのせいだと言う。
伊藤氏は現在97才、未だペンを握る毎日だそうだ。
■ はじめてのノモンハン事件 <森山康平著 PHP新書>

ノモンハン事件は1939年に起きた実質的な"日ソ戦争"であるにもかかわらず、その内容は最後まで国民に知らされず内密に処理された。
日本軍の戦死者は2万5千人(!)、完璧な負け戦であった。

ノモンハン事件こそ当時の日本が冷静に振り返り、なぜあそこまで惨敗をしたのか分析をしなければならない戦いであったが、責任の殆どを現場指揮官に被せてしまっている。

この本は、「大東亜戦争を語る時にノモンハン事件についての知識なしに語る事はできない」、というある人からのアドバイスにより読んでみた。
本の中身は戦争体験だけでない、戦争の本質的な内容も含んでいる。

ノモンハンの戦いでは日本の精神主義、兵力・装備の貧弱さ、上級司令部の形式主義、日本軍の弱点全てが見事に露呈している。
にもかかわらずそれらが全て隠蔽され、大東亜戦争に突入してしまった、
つまり勝てない戦争を始めてしまった。

捕虜になり停戦後帰還した将校は自決を強要され、下士官兵もその後の戦いで殆どが戦死をしている、いや戦死をさせられている。

この本に書かれている日本の官僚的な体質(軍隊は官僚組織の最たる組織)は果たして今の日本にはないのか、という疑問が湧いてくる。
筆者は最後のページで東日本大震災での福島原発の事故対応を例に引き出し、「ある」、としている。

この本は日本の2つ過ち、つまり、「勝てない戦争を始める決断をしてしまった」、「始めた戦争に負けてしまった」、に対する答のヒントを与えてくれる1冊である。
■ 宝島別冊:最後の証言記録太平洋戦争 <宝島社>

太平洋戦争の戦いで生き残った陸海軍の将校・下士官兵の証言集である。
現在の年令は90才から102才、つまり終戦当時20才から31才の人たちで、25才前後が中心となっている。

この本に出てくる人達は戦局全体などを知る立場にいる人達ではなく、その現場で見える限りの事について、そして自分が体験した事のみについて語っている。

体験は一兵士だった人が、「師団長がこんな事言っておかしいな〜、と思いましたよ」、というような有り得ない話とか、戦後聞いた話と自分の体験をごっちゃにしている話とかはない。

体験談は表題のとおり、太平洋と東南アジアの戦で要となったいくつかの作戦・戦闘での生き残りの人たちの生の声である。
特に沖縄の地上戦で戦った伊東孝一氏(95才:当時25才)の体験談、それにミッドウエー海戦の生き残りである原田要氏(99才:当時26才)の体験談には注目したい。

この本には全部で15人の方の体験談が載せられている。体験談の中身は淡々としている。
体験というものはそれが過酷であればある程他人に伝えるのが難しい。

またこういう方々の体験談というのは、予備知識がないと真意が伝わってこない、という点がある。
「軍旗を秘密で持ち帰った」、という一文を読んで軍旗とは何か、どういう位置付けのものなのか、これを知らないと何の事か?となってしまう。

今の日本にはこういう言葉の意味を理解できない人ばかりになってしまい、戦争の体験を語り継ぐこと自体が不可能になってしまったのではないかと思った一冊である。
太平洋戦争は何故起きたのか、結局はアメリカ・イギリスとの資源戦争・経済戦争が原因であるというのが通説です。

この戦争について日本(人)は大きな過ちを2つ犯しています。
それは、"日本は勝てない戦争を始める事を決断してしまった"そして、"始めた戦争に敗れてしまった"、の2つです。

この2つこそ我々後世の日本(人)は、"どうしてそうなったのか、その理由・原因を知っておく必要がある"、と思っています。
残念なことに今の日本(人)は戦争を"善悪"で捉えようとしており、2つの過ちについて未だにきちんとした答を得ていない、と言えるのではないでしょうか。

3冊の本を読んでわかったのは戦争体験者達は殆どが既に90才以上、体験をある程度の"濃さ"で語れる人は95才以上、あと数年でこれらの方々は鬼籍に入られるという点です。

既に"特攻は日本の恥である"、と堂々と言い放つ70代の著名な作家が出てきている現在、こういった戦争体験者の声をどうやって正確に正しく残すか、これが課題だと思います。。
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