12−12−22 最近読んだ本 |
今週は群馬県前橋市にある取引先のS社まで出張。 |
読書のペースは何とか保っています。世の中の動きについての本を何冊か読んでみましたが、その中で印象に残った2冊と吉村昭ファン必読の1冊を紹介です。 1. これから20年、三極化する衰退日本人 中野雅至(扶桑社新書) ★★★★☆ ここ20年日本では何が起きてきたのか、そして20年先にはどうなるのか、実にわかりやすく書かれている。日本は"格差社会"→"衰退社会"→"カオス社会"の道を辿ると筆者は言う。 日本は何故"衰退"の道を歩んでいるのか、筆者は学生の勉強に例え、その学生の偏差値が上がらないのはその学生の努力の少なさより、他の学生がそれ以上に努力をするからだ、という理屈で説明している。 経済的な衰退は何をもたらすか、最も恐ろしい目に遭うのは中途半端な勝ち組の金持ちであると説く。 衰退社会をはかる物差し(人材の劣化、人口減少、大衆の横暴、モラル道徳の崩壊)、日本人の弱点なども鋭く突く。このままでは日本社会は想像もできない破滅を迎える事になるが、どうすればいいのか、その答えも最後の章で書かれている。 それと日本人は既得権者に対してはものすごいパッシングをする。消費税10%の前に国会議員を減らせ、というあの考え方である。 国会議員をゼロにしても消費税0.1%分にも相当しないのであるが、日本国民は国会議員を減らさないと消費税10%上げを納得できない。なぜこういう発想に至るか、これも見事に分析している。 久し振りに私にとって衝撃の一冊である。 2.迫りくる日中冷戦の時代 中西輝政(PHP新書) ★★★☆☆ 「将来は大中華圏の時代が到来します」、「日本は中国の属国として生きていけばいいのです」、「それが日本が幸福かつ安全に生きる道です」 これを言ったのは驚くなかれ、2010年6月から最近まで中国大使であった丹羽宇一郎という民間出身の人物である。 筆者はこれをこの大使が口にした言葉は実は多くの日本人が心のどこかに抱く「見通し」、「恐怖」であるかも知れないと言い、更にこれを積極的に感じている人は"日本のエリート層に結構多い"とも言う。 これをそれとはなしに私の周りにいる40代、50代の人に聞いてみたら、同じようなニュアンスの答えが返ってきた。 彼等は筆者が言うエリートではない、普通のサラリーマンである。 注目すべきは4つの呪縛についてである。"中国文明幻想"の呪縛、"自虐史観"による呪縛、"中国市場"という呪縛、"中国は大国"という呪縛、実に「目からウロコ」、の内容である。 中国で日本に関する事件・問題があると、「それは彼等の内部事情によるもので、悪意のあるものではない」、というコメントが必ずどこからか出てくる不思議な現象についてもメスを入れている。 日本と中国の関係はどういう歴史を辿って、日本はどういう失敗を繰り返してきたか、そしてこれからどうすべきか、鋭く解説している。この本は日中関係とは何か、非常にわかりやすく整理されている。 3.ひとり旅 吉村昭(文春文庫) ★★★☆☆ 私は小説はナゼかあまり読まないが、例外がある。それはこの作家の書いた歴史小説である。吉村昭の歴史小説は基本的に事実を書き綴ったもので、いわゆる"小説=作り話"ではないのが特徴である。 であるから吉村昭はテーマを決めると実に綿密な取材・調査を行なう。その取材・調査のために日本全国どこにでも出掛けて資料を集め、人と会う。そして取材・調査旅行は基本的にひとりで行い、この本はその記録の一部である。 例えば生麦事件を書くに当たっての調査であるが、その緻密さにはただ驚くばかりである。当時の村の家々の地図・写真・記録文書など可能な限りを入手、イギリス人リチャードソンがどこで斬られて、どこまで逃げてどこでトドメを刺されたかまで調べている。 また薩摩藩士の奈良原喜左右衛門が"斬り下げた"と残っている記録に対し、馬に乗ったリチャードソンを徒侍が"斬り上げた"のではなく、"斬り下げる事が可能"であったかまで調査・検証をやっている。 吉村昭は、「史実とはそのままドラマなのです。ですから史実を忠実に書くと小説になるのです」、と語り、忠実に史実を書くことが出来ない環境になったと思うと、そのテーマについて書くのを止めている。 この本は吉村昭がその史実を調査するために日本全国に旅をした記録・随筆である。歴史に興味のある私を夢中にさせる一冊である。 吉村昭は他に多くの随筆も書いており、内容が重複するところもあるが全部飽きることなく読める。 |