11−11−01 現地採用
学生の就職戦線に今まで見られなかった傾向が出ているそうです。それは何かと言うと、海外の日系企業又は日本と取引のある海外の企業へ就職をしようとする学生が増えているというのです。

海外の日系企業への就職は日本からの派遣(駐在)社員としてではなく、現地採用社員として入社するのだそうです。企業側は日本からの派遣・駐在社員の3分の1程度の人件費で採用できるのでかなり乗り気、学生側も日本ではどうあがいても就職できないが、海外の現地採用なら就職できるという事でお互いにメリットがあると報道していました。

オハイオの私の会社にも現地採用の日本人社員がいます。採用条件(給与・福利厚生、他)は現地の基準で派遣・駐在社員と同じではありません。
仕事は日本人マネージャー(派遣・駐在の)の場合もありますが、現地人のマネージャーの下で仕事をするケースも多くあります。

私はオハイオ駐在当初、日本人の現地採用の社員が部下に1名だけいました。KAさんといい、小学校6年生の時に両親とアメリカに来てそのままアメリカで育ち、学校を卒業して私の会社に入った若者でした。
専攻は電子工学で、理論も実務もなかなか優秀でした。報告書・資料作成能力もなかなかのものでした。

名前がKAで日本人なので日本語で会話ができると思っていましたが、会社では日本語は話しませんでした。
ナゼか?日本語で私と話すと他のオハイオ人たちに、日本人マネージャーと自分達にはわからない日本語で何か話している、という事で疑心暗鬼で見られるからだ、と言うのがしばらくしてからわかりました。

オハイオでは例えばオハイオ人が5人いて日本人が3人というような会議の場合、オハイオ人の中には日本人同士が日本語でしゃべっていると、「英語で話して欲しい。」、とクレームをいう連中もいました。

オハイオ人達は割りと疑い深くて、日本人は自分達に都合の悪いことは日本語でしゃべっている、と思っていたようでした。つまり自分達も日本人に知られたくない事は、スラングだらけの早口でしゃべったりしていたという事です。
オハイオ人が電話で声を落として早口で話す時は、日本人に聞かれたくない内容の事である、と前任者から言われた事もあったくらいです。

私もKAさんが日本人だからという事で、KAさんに目を掛けたりはできませんでした。
と言うのは、それがわかってしまうと同僚であるオハイオ人、それに直属の上司であるオハイオ人からイジメを受ける可能性があったからです。
「フン、日本人のマネージャーから何か特別扱いを受けているんだって?お前は日本人だからな。」、というような感じで、非常に辛い立場になる可能性があったようです。

これは人種問題に非常に敏感なアメリカだったかも知れませんが、私は随分と気を使いました。
つまり日本人である、という理由で何か彼に有利な取り計らいをしたという事が判った場合、これは立派な人種差別問題になるからでした。

KAさんは私がオハイオ駐在になって数年後に、神学校に行って神父になるという事で会社を辞めていきました。
KAさんは会社を去るとき、私に手紙をくれました。手紙にはこれからの自分のやりたい事が簡単に書いてあり、私に対するお礼が最後にありました。

私は彼の会社の最後の日、記念品を渡しました。彼はにっこり笑って日本語で「ありがとうございました。」、と言ったのを今でも鮮明に覚えています。
報道のあった日系企業の現地法人への日本人の採用、事例であった会社の進出先はアメリカではなく東南アジア、中国でした。
これらの日系企業が日本の学校を出た新卒社員を現地採用する主たる理由は、人件費が日本からの派遣・駐在社員より安いから、という事を盛んに会社もレポーターも言っていました。

現地人スタッフは集めにくいから代わりに日本人なのか、現地人スタッフは使いにくいから日本人なのか、もしそういった理由であれば私の経験からいくと、日本人の採用は解決にはならないと思います。
採用した日本人が日本人である、という理由だけでもし有利な扱いを受けたら、現地で採用した現地人スタッフにモラール低下を引き起こす可能性もあります。

日本人の派遣・駐在社員は現地人スタッフに直接指示をする代わりに、現地採用の日本人経由でこれを行うという場合、現地人スタッフと現地採用日本人スタッフの間でいろいろと軋轢があるという話を聞いた事があります。

報道に出ていた現地採用希望の日本人学生の英語ははっきり言って、仕事で使うにはムリなレベルでした。
日本の教育システムからいくと、学校を出たからと言ってその人の専門性が高いと言うケースは限られています。
英語会話力も専門領域の能力も実戦には達していない日本人の新卒者が、東南アジア・中国の日系現地法人で何をするのでしょうか。
日本では1社も内定がなかった学生が日系現地法人の現地採用では何社からも内定をもらった、と就職活動をプロモートしている会社の社員が誇らしげに言っていましたが、これは何を意味するのか、私にはわかりませんでした。

派遣・駐在社員に比べて現地採用日本人の経費は4分の1という事は現地採用日本人にとってどいう事なのか、また現地採用社員を日本の本社に転勤させる事はこれらの会社は最初から考えていない事など、そういう待遇の違いが現地採用社員の不満の火ダネになっている現実等もあまり報道されていませんでした。

一つだけ言えるのはグローバルで仕事をするのは、「日本人である。」、という事だけをウリにして物事がうまくいくような世界では決してない、という事でしょうか。
そもそも当該国政府は外国人である日本人学生の就職には、自国民の就業機会を奪うという意味から反対の立場でしょうから、このような現地採用の日本人の数は各国合計しても大した数に達しないレベルで、まああまり問題にする必要のない只の珍しさからの報道だったのかも知れません。

いずれにせよこれらの会社と学生諸君の健闘を祈ります。
(最近気に入った小咄)

若いオスのカエルは近頃、将来に不安を覚えていた。気晴らしにでもなればと、占い師を訪ねた。
「ボクの将来を占って下さい。」
占い師はカエルの前で水晶玉を手にかざし、おもむろに語り始めた。

「見えます。運命の人があなたの目の前に現れるでしょう。」
「どんな人です?」
「可愛い女子高生です。あなたの全てが知りたい、と目を輝かせています。」

「ボクは何をしているんですか。」
「身も心も捧げて横たわっています。」
「いつどこで会えるんです?」

「生物の時間に、理科室で。」
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