10−09−14 工場の風景(1)
(神州日本の工場)

私は今、工場勤務です。工場は7000名以上の人が働いている大工場です。一時期は1万人以上の人が働いていたのですが、この不況で大きく人を減らしました。
その現代工業を代表するような工場の中の一角にある私の職場には、何と神棚があります。

出勤してロッカールームで着替えて事務所に入ると、その神棚の前でポンポンと拍手を打っている人に出会います。Mさんという安全担当の管理職で、数年前にブラジル駐在から帰った方です。
Mさんは何回も御礼をして、なにやらモゴモゴと口の中で呟いております。神棚には安全祈願というお札が置いてあります。

うんと昔、私が入社したばかりの頃の出来事です。生産ラインの班長さんで神主さんの資格がある方が見えました。お正月明けの新年の式典で、1年間事故がないよう、また順調に生産ができるようにという御祓いをその神主班長さんが行いました。

工場勤務とはいえ、本職の神主さんが御祓いをしてくれたので、みんなは神妙に頭を垂れていたそうです。
新年式典が終わった翌日、御祓いの効果もむなしく、ラインは設備トラブルで何十分も停止しました。御払いをやった神主班長さん、しょげ返っていたそうです。

オハイオではこのような儀式はありませんでした。オハイオは主としてキリスト教徒が住むところですから、もしやるとしたらキリストさんに工場の安定生産とか、安全の事とかをお願いをする必要があります。

でもキリストさんというのは、日常生活に密着した内容にはあんまりタッチしてくれそうもない雰囲気で、しかも神様はキリストさんお一人なので、大変忙しいのではないかと思います。このようなお願いを受け付けてくれるかどうか、甚だ疑問です。

幸いなことに日本の神様は分業制で一杯おみえになり、いろいろな細かい願い事も聞いてくれます。
会社にも神様がいます。機械加工の神様とか、塗装修理の神様とかです。つくずく思うに、日本はとにかく神様だらけです。
ところがこれらの神様は我々と同じように生活しているので、神様である事がすぐにはわかりません。ですから日本人は、神様を普段はあまり意識しません。

日本は神州と言われています。つまり神様が支配する国です。
日本の工場では今日も驚くべき高効率で、製品を生み出しております。あちこちで神様が汗を流しております。日本の神様とは、我々庶民の仲間なのです。

毎朝拍手を打つMさん、実は私たちの周りにいる神様に向かってお願いをしているのです。
(世界一の高効率工場)

私達は昼食はオハイオと同じく会社の食堂で食べます。食堂は会社内に4箇所もあり、数千人が2回に分けられて食べる事になっています。
食堂は非常に清潔で、そこに働くおばさん達はまるで半導体工場の従業員のような白い服と帽子を被り、マスクもしています。食堂は子会社が運営しており、おばさん達はこの会社の社員です。

おばさん達の手際の良さには目を見張ります。ご飯の盛りも茶碗ごとに、恐らく米粒が数十粒も違わないと思えるくらいの正確な量で、次々と盛って行きます。
食器、トレイ、箸、テーブル何もかも清潔です。支払いは自分のIDカードをスキャンしておしまいです。何を食べても全部同じ値段です。
オハイオの会社の食堂、見かけはマズマズ
オハイオでは自分でメニューを選んでその場で盛ってもらいました。「そのポテトはいらないな〜、、、エーっと、そうそう、その豆と野菜と、、、」、とか注文します。

オハイオでもカレーライスが1週間に1回あります。
その時は、「上に置く?それとも横?」、とか聞いてきます。
つまりカレーをご飯の上にかけるか、ご飯と別々にするか、というのを客にイチイチ聞きます。

しかし出されるカレーは、そんな事にこだわるべきカレーとは全く別の代物ですから、この質問はジョークの一種と思われます。

ローストビーフなんかもその場で大きなナイフを振り回して切って、一人ひとり皿に盛ります。
数人しか並んでいないのに何分も待たされる、なんてのはザラです。

盛りの量のバラつきは人によって大体2倍くらい違います。盛りの少ない人が担当だと、その日1日みんなの顔は暗くなって、落ち込みます。レジの精算では同じものを食べても、値段が違うというのも日常茶飯事です。豆腐になった牛乳も売っていました。

オハイオ人(正確に言うとオハイオのシステムで)が日本の工場で配膳をやったら、従業員の昼食は夕方の5時になっても列が続くという状況になるのは、誰の目にも明らかです。
日本の工場では数百人の社員が5〜10分くらいで全員が食事を受け取り、そして席について食べ始めます。

日本の工場の生産ラインの効率が今でも世界一であるのは、揺るぎなき事実です。
そして食堂の配膳システムの効率の良さもダントツ世界一です。これ、絶対に間違いありません!
(学校と工場)

日本の工場の事務所では1週間に2回、帰り際に簡単な掃除を社員がやります。
清掃後の点検は当番が決まっていて、当番は清掃状況を点検します。自分たちの職場は自分たちできれいにする、という考え方です。
この掃除によって事務所はそこそこ清潔さを維持しています。

オハイオでは職場の掃除は外部の業者が行います。夜になるとオバサンが来て、デスクごとに置いてあるゴミ箱のゴミを集め、床を掃いていきます。

掃除に関しては学校も似ています。オハイオの小学生、中学生、高校生は教室や廊下の掃除はやりません。清掃会社の人が掃除をします。学校は勉強を教えるところ、と割り切っているようです。
我が母校の廊下、きれいです
私はオハイオの高校に入った事が2回ほどありますが、廊下・教室・トイレ・食堂、いずれもびっくりするくらいきれいでした。

日本では1年半前に、私の母校の中学校に入った事があります。
それは三重県熊野市の中学校で、校舎のユニークさでちょっと有名になっている学校で、非常に清掃が行き届いていました。

校長に案内されて校内を回りましたが、感激しました。日本の中学校ですから、生徒が掃除をして清潔さを維持しています。

日本の学校では掃除も教育の一部分という事になっています。

でも日本の会社で社員に掃除をさせるのは、ズバリ経費の削減、またはちょっと気取って「愛社精神の涵養」、なんて事を言う人がいます。(イタリア人が聞いたら卒倒しそうな理由です。)

きちんとした仕事の環境を整備するのは会社の役割、従業員の役割ではない、という事をオハイオ人から聞いた事があります。

日本の社員は小さい時から学校で掃除をやっていますので、あまり疑問も持つことなく会社の掃除をやります。日本の仕組みはうまくできています。
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