アメリカを知るための20冊 : お暇な方のみどうぞ
アメリカに10年住んでも、20年住んでも所詮、それは“群盲巨象を撫でる”に過ぎません。日本人だから日本の事を知っているかというと答えは間違いなく“NO”ですから、そもそも外国人である私がアメリカを知ろうなんてそれは大それた考えであると言えます。

従ってそのような大それた事は考えずに、日常生活の中での経験を通して自分なりにアメリカを知りナルホドと感心したり、ちょい、おかしいんじゃない?とか疑問を持ったりしている訳です。
しかし知識としてアメリカの事をある程度体系的に頭の中に詰め込んでおくとその日常の経験が違った意味とか価値を持ってきます。

そこで私が過去に読んだ本でこれはアメリカを知る上でいいんじゃないかなー、と思った21冊を紹介します。★の数で評点を付けていますが、当然私なりの偏見に基づき評価をしております。
日本と外国の文化とかについて、いろいろと専門的に研究をしている先生はたくさんお見えですが、私はあくまで一介の日本人サラリーマンの目線で読んでの寸評なので、おかしいという方は遠慮なく噛み付いてきて下さい。

実はこのような内容のコラムは本HPにふさわしくない内容であるのは承知ですが、まあタマにはいいんじゃないかという事で、作成してみました。
1.アメリカ素描: 司馬遼太郎(読売新聞社) ★★★★

司馬遼太郎がアメリカの各地を旅して歩いた経験を独特の非常に鋭い眼点で綴っています。東南アジアの歴史には詳しい司馬遼太郎は「アメリカについては白紙である。」、という断りでこの本は始まっています。

「アメリカには文化はないが文明を創り出した。それはそれで功績である。」、「アメリカの悪いクセは、他国に対し“アメリカのようになれ”と、しつこく言ってまわる事にある。」、などクールな感想が書かれています。
この本は日本にいたときに読みましたが、改めて読むとズシンと感じ入るものがあります。あまり肩の凝らない読み物でもあります。

2.不思議の国アメリカ : 松尾一之(講談社現代新書) ★★★★

アメリカを7つのブロックに見立ててアメリカの多様性を分析しています。著者はアメリカ史の研究者で、それぞれをアメリカの歴史的な背景から分析しています。
アメリカ合衆国というのがヨーロッパの影響を受けつついかに成り立ってきたか、詳しく書かれています。

アメリカ、この言葉を使うときは非常に注意深くなくてはならない事を思い知らされる1冊です。
「中西部の平均的なアメリカのイメージが実は世界中の人が何となく考えているアメリカのイメージ、、、。」
それとアメリカの州と連邦政府の我々にはわかりにく関係もきちんと書いてくれています。

3.日本はなぜ敗れるのか : 山本七平(角川書店) ★★★★

太平洋戦争で日本が負けた理由を日本人の特質、特徴、行動・思考パターン等から分析し、21条にまとめている傑作です。この日本人の特徴の分析に対比して置いているのが敵国であったアメリカです。

5条の「日本人は精神的に弱い」、6条の「日本の学問は実用化せず、アメリカの学問は実用化する」、20条「日本文化に普遍性なき為」、など21条の指摘は全て今の日本・日本人にあてはまる事に驚かされます。
そしてこの分析が今から30年前に行われている点も注目すべきです。自分の実体験からの分析も多く含まれており、興味深い一冊です。

4.アメリカの大企業 : 上野明(中公新書) ★★

20年前の本でアメリカのエクセレントカンパニー12社がどういう戦略で経営されているかをケーススタディーされています。我々はアメリカの会社ではなく、日経企業で働いておりアメリカの会社というのはどういう考え方とやり方で経営されているのか知る機会は殆どありません。

でもこれを読む限り(当然と言えば当然かも)、何も変わった事をやっているという訳ではないのがよ〜く判ります。
実はものすごくにフツーなのです。
興味深いのはその中の半分近くが今は青息吐息、倒産の瀬戸際にあるという点です。ナゼか?書いてある一つ一つの戦略がどのように「実行」されているか、されたか、、、、、ここは本ではわかりません、残念ながら。
5.人の集め方、使い方、活かし方 : 竹中征夫(日経マグロウヒル) ★★★

アメリカに進出した日系企業がどうやって人を雇って、どうやって人をマネージメントすればいいのか、総務・人事系の人への本です。
米国流マネージメントの特徴、海外派遣社員の選定、キーパーソンの集め方、一般社員の集め方、優秀な人材確保のためのベネフィット・プラン、そのた事例研究などこれを読むとアメリカで働く日本人が知っておかなくてはならない事が満載です。ちょっと古い本なので今手に入るかどうか知りません。

6.ニューヨーク日本人教育事情 : 岡田光世(岩波新書) ★★★

ニューヨークの日本人子弟の教育事情について書かれている本で現地校、補習校、日本人学校、熟についてそれぞれ独特のタッチで書かれています。
私はオハイオ赴任の時は下の娘を連れてきたので、何かアメリカの学校の事を知るのにいい本はありませんか、という事で本社の教育相談室に行ってそこの先生に聞いたら、その先生がこの本を勧めてくれました。
子どもには2つの壁がある事を知りました。現地に慣れるための壁、日本に帰ってから元に戻る(?)ための壁。実にそのとおりでした。

7.貧困大国アメリカ: 堤未果(岩波新書) ★★

アメリカが国家戦略を遂行する上で、底辺の国民をどのように利用しているか、という内容の本です。つまりアメリカは金儲けのためには外国へ出かけて行って人殺しをするだけではなく、自国民の命も奪っていく、というトーンで書かれています。

「貧困層は最貧困層へ、中流の人々も尋常ならざるペースで貧困層へ、、、」、これは事実です。貧しい世帯というのはあくまでも貧しく、国家の犠牲になっていく、、、、。この言い方、岩波新書だから仕方ないか〜。

8.食べるアメリカ人 : 加藤裕子(大修館書店) ★★

アメリカ人の食生活について生活文化ジャーナリストの立場から書かれています。一つの民族の食を知ると言うのはその民族なりを理解する上で非常に重要です。アメリカの食文化の乱れが日本に伝染する事に警告も鳴らしている本でもあります。

しかしズバリ、アメリカ人の偏食に驚かされると同時にそれが何によってそうなっているのか、結果が何をもたらしているのか、非常に興味深い本です。コロンバスの日本食レストランにも来た事も書いてあります。
著者に感想のメールを送ったら、返事をちゃんとくれました。
9.ファーストフードが世界を食いつくす : エリック・シュローサー(草思社)★★★★

アメリカの農業がいかにファーストフード企業にコントロールされているかという衝撃の一冊。アメリカの農業は既にこれら企業の支配下にあり、従って国民の食生活つまり国民の命もこれらの企業に委ねているという事になります。

それとファーストフード会社は最低賃金に近い多くの3次産業従事者も支配している事実もあります。これは3年前56才で亡くなった私の友人がくれた本。結構ボリュームがあります。

10.反省しないアメリカ人をあつかう方法 : ロッシェル・カップ ★★★

日本での会社勤務の経験(どこで働いていたのか明かしていないがどうもある超有名電気メーカらしい)と、独特の日本人分析から、アメリカで働く日本人はこうしなさい、と教えています。

先ずアメリカ人の思考、行動を正とし、これに日本人はどう融合・同調するか、というトーンで書かれています。これを読んでこれに従うと、日本企業の強みが殆ど否定されてしまう点に注目。アメリカ人の弱点は全て、「そうだから。」、で済ませている点にも注目。
この著者には、同じような事をあちこちの日系企業でコンサルしている、やはり同じ女性の仲間のコンサルタントがいます。

11.訴訟亡国アメリカ : 高山正之/立川珠里亜(文藝春秋) ★★★★

アメリカは訴訟の国だとよく言われますが、それを知るにはこの一冊で十分です。アメリカのエクセレントカンパニーも弁護士に本気でターゲットにされたらおしまいです。私の会社も事例で出ていました。

それと気になるのは陪審員による裁判の欠陥についてです。これについてはかなり豊富な事例研究で詳しく書かれています。人種差別もかなり露骨にからんでいます。この部分だけでも一読の価値ありです。

真面目に製造業を営む我々は、三蔵法師の手の中で一万里を飛んだと思っている孫悟空であります。

12.好戦の共和国アメリカ : 油井大三郎(岩波新書) ★★★

「アメリカはなぜ好戦的なのか、デモクラシーの先駆者を自負するのに、、、」、という書き出しで始まります。
アメリカを好戦的な国という事に対して否定をする人はあまりいないと思いますが、独立への道から今の宗教戦争まで非常に緻密に書かれています。

これを読むと顔はニコニコして握手をしていますが、反対の手にはでっかいピストルが握られているアメリカがなぜ出来上がったか、その姿が浮かび上がってきます。
内容的にちょっと偏っているかな、と思えなくもありませんが、ま、岩波新書だから仕方ないという事にします。
13.アメリカ人はなぜ明るいか : 原隆之(宝島社新書)★★

筆者は日商岩井の現職のアメリカ駐在のサラリーマンです。ですから私のように日常の生活の中でいろいろと出てくる疑問について読み物風にかいていますので、全く肩は懲りません。筆者の住むところはカルフォルニアなので、そこでの事を中心に書かれています。

「ビジネスマンとサラリーマンの間」とか「アメリカ人の財布の中身」とか、なかなか面白いくくりで書かれています。アメリカについての雑学を蓄積するのは格好の一冊です。

14.超・格差社会アメリカの真実 : 小林由美(日経BP) ★★★★★

著者はシンクタンクのアナリストでかつ実業家です。アメリカを経済、政治、教育、民族などのあらゆる角度から分析をしています。かなり堅い内容ですが、具体的な統計データー豊富でアナリストらしい説得力もあり、冷静にアメリカを分析している本です。

アメリカを客観的に知るには最適の著書の一つだと思います。アメリカと言う国に対する、日本人の意識のズレをきちんと是正してくれる本です。内容は非常に重いのですがわかり易いのも特徴です。

15.<玉砕>の軍隊、<生還>の軍隊 : 河野仁(講談社) ★★

筆者はアメリカで博士号をとった人で歴史社会学、軍事社会学の先生だそうです。玉砕の軍隊とは旧日本軍、生還の軍隊とはアメリカ軍の事です。
軍隊とはその国の社会そのものを最も正確に反映した典型的な組織な訳で、そういった意味からこの2つの軍隊を比較すると2つの国の違いが見事に浮かび上がってくる、というカラクリの本です。

60年前に消え去った日本軍の時代の日本と現在は違うと思うかも知れませんが、よく読むと結局は本質は何も変わっていない事に気が付きます。

16.アメリカ人はバカなのか : 小林至(幻冬舎文庫) ★★

読み物風の本として一冊お勧め。筆者は東大卒業後、ドラフト8位で千葉ロッテマリーンズに入団、その後コロンビア大学MBA、アメリカのテレビ局勤務、、、。なかなか面白い経歴の方です。

中身は米国社会で生活した理不尽な事、矛盾点などを徹底的に書いております。何かを分析した中身ではありませんので、気楽に読めます。フンフン、そうだよな〜、、、納得の連続です。

元の題名は「僕はアメリカに幻滅した。」、だそうです。
17.現代アメリカの自画像 : 佐々木毅(NHKブックス) ★★★

ちょっと古い本なのですがアメリカの中産階級がナゼ衰退していくのか、これを政治を切り口に深く切り込んでいます。アメリカが衰退していく要素をいくつか具体的に挙げています。筆者は政治学者なので、中身は堅いものですが長年にわたってアメリカを研究してきた人の本であり、一読の価値有り、です。
今回の20冊の中では一番堅い内容の本でもあります。

18、アメリカ人が知らないアメリカ : 近藤康太郎(講談社文庫)★★

筆者は朝日新聞の記者で4年間に特派員生活をアメリカで送り、その取材活動を通じて知ったアメリカについて書かれています。「新聞では絶対に読めない危ない話、本当すぎる話を満載」、と裏表紙には書いてあります。

内容は経験に基づくアメリカの観察結果が書かれているだけなので、気軽に読めます。目線は低く、底辺社会からの観察結果を綴っています。
アメリカが今やキリスト教原理主義になっている、超保守主義になっている、というのですが、やっぱりアメリカが好き、という筆者です。

19.アメリカで欲しがられる日本人、嫌がられる日本人 : 岸岡駿一朗(白石書店) ★★★

この本はある程度アメリカで仕事をした後に読むといい本です。というのは書いてある事が何を意味するか、やっぱり経験がないとわからないからです。
アメリカに来て3年以上七転八倒した人が読む本です。

筆者の非常に長いアメリカでの経験から書かれている各章の中身は説得力があり、非常に実践的でかつボリュームたっぷりです。(400ページ近く)利益追求型のアメリカのビジネス社会でどうやっていけばいいのかを詳しく教えてくれます。

20.「アメリカ信仰」を捨てよ : 石原慎太郎(一橋総合研究所) ★★★

この人の書く本はいろいろと話題になりましたが、これはその中の一つです。本を読まないで、あれこれ言う人が多いという特徴のある本でもあります。よく読むと、事実しか書いてないのがよくわかります。
政治、産業、経済、軍事の各領域でアメリカが日本に対してどのような行動に出ているか、独特の観点と解釈で書かれています。
アメリカは甘いのか、塩辛いのか、酸っぱいのか、その辺をざっくり知るための一冊だと思うのでここに挙げます。
21.「アメリカ社会」入門  : コリン・ジョイス(NHK出版) ★★★ 

翻訳本である。イギリス人から見たアメリカ、どのようにイギリス人には映っているのか。
アメリカ人はナゼあんなに陽気なのか?、アメリカ人のあの根拠のない自信はどこからくる?、あまり外国に行きたがらないのはナゼ?、どうしてそこまで働く?、あんなに大金をかけておきながらどうして出来上がった映画はろくでもないのか?、、、どうしてすぐ裁判に持ち込むのか?、いったいチアリーダーってなに?

著者はオックスフォード大出身で、日本滞在が10年以上、高校の英語教師もやっている。その後アメリカに行って2年でこの本を書いた。かなり多方面に素養のある著者であり、考察は鋭い。

アメリカとイギリスは「いとこ」の関係という。血のつながりはあるが、兄弟ほど近くはない、兄弟と違っていとこの場合は好きでもないのに好きなふりをしなくてよい。
こういう切り口でかなり冷静にアメリカを観察しているのがわかる1冊です。
何かの縁があってオハイオ(アメリカ)に住む事になった私。日本で読んだ本をこちらに来て読み直すとその時はよくわからなかった事が、そうか、こういう事だったのか、とか改めて新鮮に感じたりします。
ここに紹介したのはほんの一部で、一応★★以上の中から選んでみました。これ以外に日本の本屋さんには溢れるほど多くのアメリカの本がありますので、もっと面白い本はいくらでもあると思います。

それといろんな人と話をして、外国を知るためには先ず、「自分の国の事をしらなくては、お話にならない。」、というのも強く感じた次第です。
自分の国、歴史、自分の属する文化、これを知らなくては何が違うのか何が異質なのかわかる訳がない、という当たり前の事に気が付く人は結構いるようで、私もその一人です。

会社の近所の高校の先生に「アメリカの歴史を教えてくれ。」、と頼んだら日米開戦の話しをとうとうと1時間やったとか、日本でどういう事をやっている人か調べないで、ちょっと?という人を学校に呼んだりとか、笑止千万の出来事は山ほどありますが、こういう事も真剣に考えるのは外国に来たからでしょうか。

では本HPの趣旨から外れたコラムはこの辺でおしまいにしま〜〜す。
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