オハイオの美術館、博物館−2
コロンバスの西100kmくらいの所にデイトンという市があります。
ここには巨大な空軍基地があり、名前をライトパターソン空軍基地といいます。世界で最初に動力飛行機を発明したのはライト兄弟という事は誰もが知っておりますが、このライト兄弟が生まれて育ったところがここ、デイトンなのです。

デイトンの基地には世界最大、最古の軍用機の博物館があり、年間100万人の世界中の人が訪れます。
この博物館は屋内の展示場だけで10,000坪以上(40000平方メートル!)、300機以上の実物の飛行機、その他何千点もの記念品等が陳列されている巨大なものです。

飛行機は結局は兵器として発達してきたものであり、ここ空軍博物館を見学するとその発達がよくわかります。
しかし「空軍博物館」であるため、もう一方の海軍で発達してきた飛行機に関しては一切の展示説明がなく、ここを見るだけでは飛行機の発達、歴史の半分しかわかりません。
これは見事に徹底しております。

何はともあれ、圧倒される規模の博物館です。
空軍博物館の入り口

ここは展示場の広さもさる事ながら、敷地の広さにも圧倒されます。
デイトン市のかなりの部分が空軍基地で、これ以外にこれといった特徴はない感じすらします。

いつ行っても多くの見学者がおりますが、駐車場がなくて困る、という事は絶対にありません。ただ歩く距離が長くなるだけです。

年間で休みは3日だけ(サンクスギビング、クリスマス、新年)で9AM−5PMオープン、入場料、駐車料は無料です。
人類初の動力機

展示場に入るとまずライト兄弟の発明した飛行機が展示されております。
初飛行はデイトンではなく、ノースカロライナで1903年12月、今から100年前です。

またあちこちに自転車の部品が使われているのがよくわかります。
展示場は巨大な格納庫がいくつも使われ、展示方法、ライトアップの方法等も見事なものです。

説明はやはりというか、当然というか全て英語ですが、パンフレットは日本語があり、これにはびっくりしました。
第一次大戦の飛行機−1

第一次大戦は飛行機を一気に実用レベルに発達させたという意味から、アメリカだけではなく、イギリス、ドイツ、フランスの軍用機が何十機も展示がされております。

これはアメリカの双発偵察機で、コックピットに当時の格好をした人形付きです。

また別のドイツの戦闘機の展示の説明には、当時の前線でのパイロットの平均寿命は2週間と書いてありました。
殆どがすぐ戦死、極く一部がベテランになって生き延びたということでしょうか。
第一次大戦の飛行機−2

実際の飛行機以外に非常によく工夫された資料の展示、説明も豊富です。

展示品飛行機は全て本物で、レプリカは全くないと言っていいのがここの博物館の特徴だそうです。

この頃の飛行機は全て複葉で布張り、翼にはピアノ線が張りめぐらされており、ちゃちな感じがしないでもないのですが、「これぞ飛行機」という感じがします。

ドイツ、イギリス、フランス、そしてアメリカの4カ国の中でやはりドイツ製の飛行機が目を引きます。
第二次大戦の飛行機−1

この頃になると金属製で車輪も胴体、又は翼の中に引っ込むタイプになっています。
アメリカは第二次大戦に本格的に参戦するまではそんなに多くの飛行機を持っていなかったようです。

参戦を決意して国家総動員で飛行機の増産に励んだ、そして女性のパイロットも1000人以上養成したとあります。
結構な年(案外そうでもないかも知れない)のおばあちゃんが、機体ネジを締めている写真とかが掲示してありました。
第二次大戦の飛行機−2

この時期の飛行機は日本を除く、ありとあらゆる飛行機が何十機も展示がしてあります。

特に大型の爆撃機が見物で、この写真はB17という爆撃機です。
アメリカ人にとってはB29よりもこちらの方が馴染みが深いようで、いつも多くの人が群がっております。

博物館には子ども連れが多く、親が一生懸命に説明をしているのが印象的です。
アメリカの子どもって、こんな時から戦争の話をたたき込まれているのかな?
第二次大戦の飛行機−3

これは鮫ではありません。ドイツが作ったMe262という、何とジェット戦闘機です。

アメリカは第二次大戦ではジェット機の実用化はできなかったそうですが、ドイツはこれを実戦に投入、アメリカの飛行機を片っ端から撃墜したとあります。

横にはこの飛行機のエンジンのカットモデルとまるで大砲のような機関砲も展示されております。
今から60年近くも前に、このようなジェット機を作ったとは本当に信じられません。
第二次大戦の飛行機−4

展示にはジェット戦闘機を含めて、ドイツ製の戦闘機、装備品の展示が非常に多いのに気が付きます。

この写真はメッサーシュミットの有名な戦闘機で、エンジンの中も見えるように展示してあります。
当時のドイツの技術に対し、アメリカは恐怖を抱いていた、という話を聞いた事があります。

ただし、それぞれちゃんと欠点が明確に説明してあり、これも面白いところです。この戦闘機にには「ショートレンジであった」と書かれてありました。
つまり航続距離が短かった、ということです。
日本に関連した展示−1

定番の真珠湾攻撃の様子が当時の新聞、ラジオ放送(これはかなり大きな音でスピーカーから流れている)の紹介がしつこくあります。

「Jap」という言葉で埋め尽くされており、中学生あたりが真剣に見入っております。
遊園地で日本人の小学生が、アメリカ人の小学生に「戦争に負けた国の子は、ここで遊ぶな!」と言われたという事を聞いた事があります。

アメリカでは全く自然な日本人観で、これに対して私は疑問はありません。
日本に関連した展示−2

これも定番のもので、どこの博物館(このような軍事博物館に限らない)に行っても、その辺のアンティークショップに行っても、本当によく見かけます。

当時のアメリカ人が、戦死した日本人を穴に埋める前に必ず探したそうで、いったいどれだけの日の丸の寄せ書きがアメリカにあるのか、見当がつきません。

アンティークショップでは100ドルから200ドルくらいで売られており、この値段は非常に高価と言えます。
日本に関連した展示−3

太平洋でどのように日本を追いつめていったか、本当に詳しく説明がされております。パプアキューギニアから北にこのように攻めていった、というのがわかりやすく説明してあります。

日本の展示に関しては、ドイツのように技術的に優れていた、という説明は一切ありません。
一部に装備品の展示がありましたが、「これはホッチキス社のコピーである」というように書かれてありました。

日本の工業力は問題にしていなかったのがよくわかります。
日本に関連した展示−4

これは「桜花」という人間が乗って体当たりをするロケット爆弾で、巨大なB29の横に置かれておりました。

他の巨大な爆撃機とか、精密に作られた戦闘機とかに比較するとその造りの雑さは一目瞭然です。

B29の横にひっそりと置かれたこの日本の飛行機、いえ人間爆弾、このようなものを見ると私は涙が出る程悲しくなってしまうのです。

他にも日本の戦闘機を所蔵しているそうですが、この時は展示がありませんでした。
日本に関連した展示−5

「日本帝国海軍のエース、サカイ中尉」と説明があります。坂井中尉はNAVY、つまり海軍なのになぜここに紹介してあるのか、よくわかりません。

この博物館で「NAVY」と明確にここまで書かれているパネルは、これしかなかったように思います。

坂井中尉は戦後も生き残り、最近亡くなったというのをこちらの新聞で見ました。
日本では知られていない、アメリカで(戦争の英雄として)有名な人の一人でした。
日本に関連した展示−6

最後の締めくくりがこれです。
「日本の降伏」、ミズりー号の上で行われた降伏調印式の有名な写真が展示してあります。

その横には広島、長崎への原爆投下の説明もあり、これによって戦争を「終わらせる事ができた。」と書いてありました。

ですから一般的なアメリカ人は原爆は「アメリカ人の戦死をくい止めた」正当なものである、というのが一般的で、これを子どもは小さいときから頭にたたき込まれていると考えるべきです。
朝鮮戦争の飛行機

第二次大戦の次は朝鮮戦争。これは文句なしにF86ジェット戦闘機です。

横には対敵したMIG13というソ連製のジェット戦闘機が展示してあり、F86が途中で前線に投入するまではアメリカは苦戦したとあります。

このセクションには、その巨大さに唖然とするしかないB36という爆撃機が展示してあり、圧巻です。

しかしアメリカってよくもこんなものを次から次へと作ったものだと感心してしまいます。
宇宙関連

これはアポロ13号。
宇宙関連は空軍博物館という事で、非常に限られた展示しかされておりません。また見学者も殆どおりません。

それと不思議なのは飛行機関連の展示が朝鮮戦争で終わっている点です。
つまりアメリカが泥沼の戦争を長期間やったベトナム戦争に関する展示がないのです。

この理由はよくわかりませんが、アメリカにとって思い出したくない戦争だからなのかナ?
現代の軍用機−1

飛行機の黎明期から始まって朝鮮戦争までの多くの飛行機の展示の他に、さらに現代のアメリカ空軍の現用機の展示が大量にあります。

このへんになると私はあまり興味がない、つまりロマンを感じないのです。
しかし一般的には大変な人気で、現在のアメリカ空軍のイイ宣伝にもなっている感じです。

全て屋内展示で、オハイオの厳しい冬でも機構に関係なく見学ができます。
現代の軍用機−2

この辺りの飛行機になるともうさっぱりで、あれF16?F18?とか私の知識もまったくあやふやになってしまいます。

すごい高価な、そして技術の粋を集めた現代の軍用機。
アメリカの航空機産業の結晶なのでしょう。

このような飛行機を何千機も持ち、それを毎日飛ばしている国、アメリカ。やっぱりスゴイと言わざるを得ません。
航空救難の展示

ちょっと古い飛行機なのですが、救難用の飛行艇の説明がありました。
水陸両用で、24時間いつでもどこでも救助する体制が整っている、と説明にありました。

さあ、そこで見学の坊ちゃん、お嬢ちゃん達。
撃墜されてもアメリカ空軍はちゃんと助けに来てくれるそうだから、安心して空軍に志願して、戦争に励んで下さい!
こんな感じでしょうか?
博物館内の売店

飛行機、空軍関係のお土産をたくさん売っております。
ありきたりの置物とか、アメリカのお土産の定番である、スプーンとかTシャツ。
いずれもそれ程高くはありません。

アメリカのお土産屋の共通点として、お土産屋には食べ物が一切ありません。日本のように何とか饅頭とか、何とか煎餅とかがないのです。

2階にはカフェテリアもあり、食事ができます。
屋外の展示

博物館の展示は屋内だけでなく、屋外にもあります。

が、かなりくたびれたありきたりの飛行機ばかりで、人気があるとは言えない感じでした。

アメリカ軍は次から次へと多くの飛行機を購入して、使わなくなった飛行機でまだ飛べるものは、アリゾナの砂漠に何千機と保管してあるそうです。

つくずくとアメリカの広さを感じます。
メモリアルパーク

駐車場と博物館の間には小さなメモリアルパークがあり、空軍に貢献した個人、組織の記念像とか記念プレートが美しくレイアウトされております。

ここに寄って行く人はあまり見かけませんが、アメリカ人が何を英雄として讃えるのか、何をした人に注目をするのか、非常に興味深いものがあります。
「空軍博物館」ですから基本的に飛行機の事、戦争の事が中心になっています。
これらは日本では一部のマニアの世界くらいの感じでしょうが、アメリカは違います。年間に100万人もの人が訪れる、アメリカ有数の「博物館」なのです。
特に学校や青少年を対象にした、教育プログラムにも力を入れている様子で、立派な施設もありました。

この博物館の中身は無敵のアメリカを強調しており、過去の困難な事態をアメリカは乗り切ってきた、というトーンをひしひしと感じます。アメリカとアメリカ人の奥を少しでも知るためには、ここの博物館は有効かも知れません。
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